「日本式」がベスト?岐路に立つ英鉄道の民営化 コロナ禍で「フランチャイズ制度」見直し論

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では、イギリスの「フランチャイズ制度」とはどんな仕組みなのか。

イギリスでは、鉄道の運営に「上下分離方式」を採用している。欧州各国の旧国鉄も上下分離化されているほか、日本国内にも例はあり、方式自体は珍しいものではないが、イギリスのフランチャイズ制度は複雑だ。

「上」は運行や運営に当たる組織を指し、イギリスの鉄道においては列車運行会社(Train Operating Company=TOC)と呼ばれる。JR東日本や三井物産などが出資する「ウェストミッドランズトレインズ(West Midlands Trains)」もTOCの1つだ。

一方「下」は線路や信号、駅などの設備インフラを指し、イギリスではネットワーク・レール(Network Rail)という運輸省傘下の組織がその保守・運営に当たっている。

TOCがフランチャイズを得て運行するまでの流れを簡単に示すと、以下のようになる。

【TOCがフランチャイズを得て運行するまでの流れ】
・運輸省が路線ごとや地域ごとに「フランチャイズ」(運営権)を設定。
・列車運行会社(TOC)になりたい企業が、フランチャイズ獲得に向け入札。
・運輸省が審査ののち、フランチャイズを付与。
・TOCが入札時に提示した条件に沿ってダイヤや運賃を設定(運輸省の認可を要する)

現在有効なフランチャイズ契約は全部で17件。このうち2件は民間企業が運営していたTOCが行き詰まったため、暫定的に運輸省が直接運行を手がけている。車両は車両保有会社(Rolling Stock Companies=ROSCOs)が管理・保有しており、新型車両の買い付けも行う。TOCはROSCOにリース料を支払って車両を借りる形だ。

複雑なフランチャイズ制度

では、TOC各社はどのようにして儲けているのだろうか。

まず気になるのは運賃収入の流れだが、乗客が支払った運賃や料金などはTOCに集約される。ただ、全国の駅窓口や自動販売機、任意のTOCのサイトでチケットが同じ価格で買えるため、TOC間の決済はややこしい。また、TOCが自社運行列車のチケットを自社サイトでのみ割り引いて売っているケースも見られる。

一方、TOCの主な支出は、運転士や車掌、駅職員といったスタッフにかかる人件費のほか、ネットワーク・レールに支払う線路の使用料、ROSCOに支払う車両のリース料、そして運輸省に支払う「プレミアム」だ。

プレミアムを支払うのは採算性の高い路線網の場合で、不採算路線の場合は逆に運輸省から補助金が出る。フランチャイズの競争入札では、TOCになりたい企業各社が提示するプレミアムの支払い見込み額、あるいは求める補助金の額(少ないほうがいい)が重要な選考ポイントにもなる。

これらを支払ったうえで、手元に残った分がTOCの利益となるわけだ。

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