「日本式」がベスト?岐路に立つ英鉄道の民営化 コロナ禍で「フランチャイズ制度」見直し論
イギリスの鉄道業界におけるフランチャイズ制度は導入から25年あまり経たが、ここ10年間は入札する企業の数はそれ以前と比べて明らかに減少している。これは、英運輸省がTOCに対し、支払いの管理やリスクマネージメントに関する要件をより厳しくしたことや、あるいは鉄道路線そのものが飽和状態にあり「商業的なインパクト」のある列車運行を考える余地がない、といった背景があると考えられている。
長距離区間のフランチャイズはかなり厳しい状況にある。例えば日立製作所が製造した都市間高速車両「あずま」が走る、ロンドンとスコットランド間を結ぶ東海岸本線では、過去10年間で2度もTOCの運営に問題があり、会社側が運営権を返上したり、運輸省が運営権を剥奪したりした経緯がある。
最近では3月1日付で、イングランド北部の運行を担当していたノーザン・レール(Northern Rail)が「運行の遅延や列車のキャンセルが慢性的に起きている」としてドイツ鉄道(DB)子会社が持っていた運営権が剥奪されている。
「日本方式が望ましい」
そんな中、過去に取りまとめられた「イギリス鉄道業界のあるべき姿」を示した報告書が亡霊のように蘇ってきている。
これは2018年の秋、ダイヤ通りの運行維持が不可能となり大混乱が生じたのをきっかけに、イギリスの航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)取締役会長を歴任したキース・ウィリアムズ氏を座長とする独立委員会が取りまとめたものだ。
報告書は、列車運行会社とインフラ管理会社が共同でサービスを提供し、これをより広い地理的エリアをまとめる形で実施する――つまり「いま、日本で行われているような方式に近いもの」が望ましいとしたうえで、「少なくとも、フランチャイズ制度は今後、継続するべきではない」と断罪。抜本的な対策を待ち望んでいる姿勢がうかがえる。
欧州の国鉄民営化で広がった「上下分離方式」をめぐっては、日本でも第三セクターや地方路線などの運営に際し、参考にすべき方式として多くの研究者が分析などを行ってきた。しかし、欧州他国より複雑な仕組みを採用しているとはいえ、上下分離による運営を行ってきたイギリスの委員会が「(上下分離でなく地域分割した)JRの仕組みがより望ましい」と述べていることは驚くべき事実と言っていいだろう。
コロナ禍を通じ、世界中の公共交通機関が未曾有の危機に晒されている。果たして、イギリスの鉄道界はコロナをきっかけに「大規模改革」の道を歩み始めるのだろうか。
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