「日本式」がベスト?岐路に立つ英鉄道の民営化 コロナ禍で「フランチャイズ制度」見直し論

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先に述べたように、新型コロナの感染拡大による厳しい外出制限を受け、鉄道旅客需要が一気に減少することは想像にかたくなかった。そこで運輸省は仕組みを大幅に変更し、TOCの負担を軽減する措置を取った。

【コロナ禍におけるTOC救済プラン】
・運輸省が旅客収入全額を徴収。
・線路使用料などの運行経費、職員の賃金、車両リース料を政府がすべて負担。
・TOCは少額の運営費(各TOCのコロナ前支出の2%を基準)を運輸省から受領。
・実際の列車運行は各TOCが政府との調整を経て引き続き担当。

実際に「ロックダウン宣言」から2週間後には、鉄道による移動人口がコロナ以前と比べて99%減(つまりほとんど乗客がゼロ)の水準まで下がってしまった。乗客数急減の水準は1860年代、つまり日本に鉄道がイギリスから伝わるより前のレベルまで落ち込むともいわれている。もともとの仕組みであれば、TOC各社の経営は立ちゆかなくなってしまう。

つまり、こうした救済策が奏功して最小限の列車運行を維持できたわけだが、一方で公金から多額の負担をつぎ込む格好となったのは否めない。

鉄道利用者数は前年比10%以下に

総額はまだ正確に算出されていないが、これまでにコロナ対策での運行維持のために政府が拠出を承認した額は35億ポンド(約4600億円)に達している。これをコロナ発生から6月中旬ごろまでの旅客数をもとに算出すると、乗客1人当たり100ポンドもの税金が注ぎ込まれていたことがわかった。

日本でもコロナの緊急事態宣言中に人の動きが止まり、特に地方の公共交通事業者の経営が極めて厳しいと報道されているが、実際に救済を目指すとなると、こうした水準の資金を使って支援しなければ運営を継続できないという厳しい実態が浮かび上がってくる。

ナショナル・レールの利用者数は今年、第2次大戦後で最大水準の19億人に達すると試算されていた。だが、新型コロナの第2波のリスクは世界的に消えていない。6月15日にはイギリスでも外出制限がかなり緩和され、非食品を扱う一般商業施設の再開が認められたものの、客足の戻りは鈍いうえ、徹底したテレワークへの移行によりナショナル・レール各線の利用者は前年同期と比べて10%以下にとどまっている。

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