ベンチャー投資家の極意「黄金の時間の買い方」 日本がシリコンバレーで情報がとれない理由
投資家やベンチャーキャピタルとベンチャー企業の関係は、男女の恋愛関係に似ているところがあります。
有望なベンチャーに出会いたいからと、コンテストを開いて、上位に入った会社に「投資させてください」と行く。しかし、これは恋愛に例えてみると、ミスコンテスト、ミスターコンテストを開いて、その上位に入った人に「お金があるので付き合ってください」と言っているようなものです。
いったい自分は誰なのか、何者なのか、相手にはそこまで知られていないのに、です。お金だけはあると認識されるとしても、これでは本当の相性がわかって付き合うことには遠いのです。
もっと大事なことがあります。それは、「本当にすてきな人の誰もがミスコンテストやミスターコンテストに出るわけではない」ということです。実は、将来のために知名度をつけておきたいと考える「出たい人」以外に、良い人がいるのです。その人たちを、自分の目で見つけてくることこそ重要です。
ベンチャー投資も同じです。コンテストに出場などしなくても、いくらでも投資が集まるような会社をこそ、見つけないといけないのです。
そういう会社に投資しているのは、自分たちは何者なのかをはっきりとさせ、「あそこはいいよ」と評判が立っている会社や人です。
そういう投資家のところには、じっとしていても案件はやってきます。恋愛と同じで、信用や評判が立てば、「そういう内容だったら、あの人のところに相談に行くといいと思うよ」と、黙っていても、条件のよい投資話が集まってくるのです。
「本社に確認するので1週間待ってほしい」
また、事業会社が自己資金でスタートアップ企業などへの投資を行う、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)が世界中で拡大しています。グーグルのGVや、インテルのインテルキャピタル、セールスフォースのセールスフォース・ベンチャーズなどがよく知られています。
CVCは、投資益よりも質のよい新しい情報や技術の本業への取り込みに期待する狙いがあります。スタートアップ企業への投資を通じて、ビジネスの最新情報を得たい。協業をしたい。優秀な人材を招聘したい、などの目的が中心です。
企業本体の経営とは切り離し、ファンドの形式を取ることがほとんどです。それだけに投資の決定も迅速にできるメリットがあります。これはスタートアップ企業にとっても、事業拡大のためのスピード感ある資金調達につながります。
日本企業でも、CVCが拡大しています。自分たちの本業がいつ、どこから浸食されるかわからないような状況の中で、うまくいけば協業、さらには買収も目的として、投資によるリターンというよりも、新しい技術や優秀な人材を獲得するためにCVCを活用しようとしています。
この流れ自体は問題ないのですが、だからといって日本企業のCVCがいきなりシリコンバレーにやってきて、ベンチャー企業への投資が簡単にできるわけではない、ということには注意が必要です。
とくに大手企業のCVCの場合は、一度もベンチャー投資の経験がない人材が、財務や経理、企画といった部署から送り込まれてくることが少なくありません。突然、辞令ひとつで不慣れなベンチャーキャピタルの業界に放り込まれ、しかも勝手のわからないシリコンバレー。この二重の新天地で、どうしていいかわからない、という声が聞こえてくることも少なくありません。
英語が得意なわけでもなく、新規事業分野や投資分野など課題意識がはっきりしているわけでもなく、決裁権を持っているわけでもない。何かを決めるにも、「本社に確認するので1週間待ってほしい」という返事をする。これでは、ベンチャー企業から信頼してもらうことは難しいのです。コミュニティーやインナーサークルにも入ることは難しくなります。
結果的に、日本企業から派遣されて来られた方の中には、行き場がなくなってしまい、日本人ばかりで集まっているケースも少なくないのです。
しかも、話を聞いてみると、驚くようなKPI(重要業績評価指標)を与えられていたりします。なんと、毎期×件投資を決めなければいけない、という話を聞いたこともあります。ノルマを与えられた担当者は、どうしていいかわからなくて困り果てていました。先にも書いたように、良い案件に出合うのは至難の業なのです。
目利きを放棄して、とにかく投資して数を増やしたいというのは、CVCの本来の目標である、「質の良い新しい情報や技術の本業への取り込みに期待する」ことから完全に逸脱しています。
そもそもベンチャー投資は一番投資のリターンや協業の可能性が高い創立間もない時期に投資をする場合、手当り次第に投資をすると100件に3件ほど当たればいいい、十分に目利きをしても10件に1件、1割当たればいい、というのが現実なのです。
プロのベンチャーキャピタルでも9割は損か、少しの利益の案件ということです。その代わり、当たった1割でその損を取り戻す以上の利益を上げる。そういうモデルなのです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら