コロワイド、「大戸屋」を敵対的買収する勝算 45%ものプレミアムでTOB成立の可能性大

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大戸屋にとってはホワイトナイト(白馬の騎士)による対抗TOBや、ファンドとのMBO(経営陣による買収)といった対抗措置が考えられるが、「あの価格だと助けてくれるところはないだろう。大戸屋にしてみればかなり厳しい状況」(ある法人株主)。ともかくもコロワイドのTOB価格が高いのだ。さらなるプレミアムを付けることは難しい。

コロワイドによるTOBが成立する可能性はかなり高いといえそうだ。

従業員やFC店が離反する懸念

ただ、買収が成功したとして、コロワイドは大戸屋の抵抗に手を焼くことになるかもしれない。大戸屋は6月5日に「当社従業員による意見表明」「当社フランチャイズ加盟店による意見表明」を発表している。それぞれ、「コロワイド社の買収が成功しようものなら、退職も辞さない覚悟」「フランチャイズ加盟店の離脱が起こり、当社の企業価値が大きく損なわれるおそれがある」という意見があった。

多くの企業買収によって規模を拡大してきたコロワイドは「これまでの経験値から、しっかり説明すればご理解いただけると認識している」とするものの、大戸屋の看板を手に入れることができても、従業員やフランチャイズ加盟店の人心が離れては、店舗の運営に苦労しそうだ。

窮地に立たされた大戸屋HDの窪田健一社長(記者撮影)

加えてコロワイドの財務状況も懸念される。今回のTOBでの買い付け金額は最大で71.8億円にのぼる。すでに保有している約19%分の取得額と合わせて、100億円程度の額になる。対して、大戸屋の純資産は3月末時点で32.7億円しかないうえ、4~6月のコロナ禍によって赤字を計上し、さらに純資産が痛んでいると見られる。

コロワイドは、買収によって70億~80億円の「のれん」を計上することになる。コロワイドのバランスシートを見ると、すでにのれんが717億円あるが、自己資本は388億円しかない。さらにのれんを増やすことは、財務上のリスク増加につながる。

膨らむのれんについては「計画しているシナジーや事業再建がしっかり履行できれば問題ないと考えている」(コロワイド)と説明するが、9日のコロワイドの株価は前日比2.4%値下がりして1372円となった。株式市場は、コロワイドが大戸屋を子会社化することを歓迎したとは言えない。

株主総会における否決からわずか2週間でのTOBは、決して行儀がいいものではない。そんな批判は百も承知で、コロワイドは大戸屋を取りにきた。大戸屋の現経営陣は、一転して窮地に立たされた。

佐々木 亮祐 東洋経済 記者

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ささき りょうすけ / Ryosuke Sasaki

1995年埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、慶応義塾大学経済学部卒業。卒業論文ではふるさと納税を研究。2018年に入社、外食業界の担当や『会社四季報』編集部、『業界地図』編集部を経て、現在は半導体や電機担当。庶民派の記者を志す。趣味は野球とスピッツ鑑賞。社内の野球部ではキャッチャーを守る。Twitter:@TK_rsasaki

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