香港・国家安全維持法、条文で読む深刻事態 「一国二制度」と「人権」は完全に消え去った

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国会安全維持法の成立後、民主化運動組織から離れる若者が相次いでいる。写真は返還から23年の7月1日に厳戒態勢下にある香港(写真:AP/アフロ)

国家安全維持法の成立後、香港の動きがあわただしい。民主化運動組織の解散が相次ぎ、中心的役割を果たしていた若者らが次々と組織を離れ、姿を消した。

用意周到な中国政府は新たな取り締まり組織などの幹部人事をいち早く公表、新法を適用した逮捕者も出た。香港は一夜にして別世界となってしまった。

新法の条文を詳細にみると、民主化運動を抑え込もうという中央政府の意志の強さは強烈で、ありとあらゆる手段が法律によって担保された。これでは民主化運動家らが身の危険を感じ、行方をくらますのも無理はない。国家安全維持法の内容を条文に沿って詳しく紹介する。

人権は単なるお飾りでしかない

「総則」と題する第1章は中国政府の本音と対外向けの建前が混在している。「『一国二制度』、『香港人による香港統治』、高度の自治の方針を確固不動かつ全面的に正確に貫徹」(第1条)、「人権を尊重し、保障」「言論・新聞・出版の自由、結社・集会・デモ・示威の自由を含む権利及び自由を法に基づき保護」(第4条)と民主主義国並みの原理原則が盛り込まれている。さらには「法治原則を堅持」し、刑事被告人は判決が出るまでは「無罪と推定」(第5条)などとも書かれている。

中国の現実からかけ離れた記述だが、もちろんこれらは建前にすぎない。同じ条文で、この法律の中核をなす国家分裂など4分野の犯罪類型を明示したうえで、「国家安全を守るための法制度・執行メカニズムを確立・十全化することに関する全国人民代表大会の決定に基づき、本法を制定する」(第1条)と本音が明記されている。

気になるのは第6条に「香港特別行政区住民が選挙に参加する又は公職に就くに当たっては」香港基本法を順守し、香港特別行政府に忠誠を誓うことを「法に基づき文書に署名し確認を行う又は宣誓」することが義務付けられている部分だ。新法を含む香港基本法を順守すると署名しなければ選挙に参加できないとも読めるが、ここでいう「選挙に参加」が被選挙権だけなのか、選挙権までを含むのかははっきりしない。いくらなんでも市民の投票の権利まで奪ってしまうことはないと思うが。

第2章以下では、香港での民主化運動を不可能にするための仕組みが二重三重に定められている。

第9条では香港特別行政区は「国家安全の維持とテロ活動の防止についての国策を強化しなければならない」と定め、宣伝や指導、監視、管理の対象は「学校、社会団体、メディア、インターネット等」としている。デモ参加者の中心的役割を果たしていた大学やそれを報じるマスコミやネットが監視対象となり、この時点で第4条が言及している人権は消えている。

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