香港・国家安全維持法、条文で読む深刻事態 「一国二制度」と「人権」は完全に消え去った

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組織改革は香港の行政府にも及ぶ。香港の警察(警務処)には新しく「国家安全を維持するための部門」を設立(第16、17条)し、インテリジェンス情報収集や分析のほか、国家安全維持委員会から任された工作も請負う。

また検察行政など中央での法務省に該当する律政司には、新法違反者を扱うための国家安全犯罪事案起訴部門が設立される(第18条)。財政面でも国家安全維持に関する支出は一般財政を充てるとし、「関連する人員編成を承認しなければならない」「特別行政府の現行関連法の制限を受けない」など、新法関連の財政支出に対する香港行政府の拒否権を否定している(第19条)。

つまり、一国二制度は国家安全維持の分野においては、組織、人事、法手続き、財政などあらゆる面で、完全に消えてしまっているのだ。

メールや金銭支援だけで取り締まり対象に

広く報じられている通り、取り締まりの対象となる犯罪行為は「国家統一を破壊する行為(国家分裂罪)」「国家を転覆する行為」「テロ活動」「外国、海外勢力との結託」の4類型である。それらを詳細にみると不明確な点が多い。

分裂罪は香港や中国のほか、「いかなる地方であっても中華人民共和国から分離させること」が対象となっており(第20条)、台湾やウイグルなどの分離独立運動も対象になりそうである。

転覆罪は「中華人民共和国の根本制度を転覆し破壊すること」「政権機関を転覆すること」「法律に基づく履行機能を重大に干渉し、妨害し、破壊すること」(第22条)など、非常に抽象的で幅広い取り締まりが可能になっている。

また、テロ活動は「人に対する激しい暴力」「交通機関、交通施設、電力設備、ガス設備又はその他の燃焼し爆発しやすい設備を破壊すること」(第24条)などと書かれており、いわゆるテロ行為というよりも、過激なデモの取り締まりの根拠規定として使えそうである。

問題は、テロ活動以外の3つについては「組織し、計画し、実施し又は参加」「扇動し、協力し、教唆し、金銭又はその他の財物をもって他人を援助」のいずれも犯罪とされている点だ。つまり、実際の行為がなくても、相談したり、メールを送ったり、金銭支援をするだけで取り締まりの対象にできる。これでは民主化運動家らもその支援者もまったく身動きできない。

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