世界が中国の「経済的恫喝」に屈しない為の知恵 国際ルール整備や依存度低下、有志国連携カギ

✎ 1〜 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 12 ✎ 最新
拡大
縮小

先述のとおり、「経済的恫喝」の認定は被害国の申請に基づくが、自由連合基金の事務局は中国の「経済的恫喝」の状況を継続的にモニタリングし、それを全メンバー国および必要に応じて世界に公表し、各国への注意喚起と中国への牽制の機能を果たすことも期待できる。また、必要に応じ、自由連合基金が中国との間で対話・交渉を行うことも考えられる。

なお、1段階目と2段階目の双方の機能を持つ「自由連合基金」の形が最も効果を発揮すると考えるが、実際の資金供給を行う2段階目の仕組みの設立には時間を要す可能性がある。その場合には、まず、1段階目の中国の「経済的恫喝」を参加国で認定・公表するという仕組みを「自由連合イニチアチブ」として先行して立ち上げることも考慮すべきであろう。現在の国際状況に鑑みれば迅速な対応の必要性は高い。

より広く中国に対する地経学的手段の行使を考えた場合に、いくつかの局面が想定できる。

① 香港の一国二制度の不遵守に対して関係当局者の資産凍結を行うといった措置で、これを地経学の積極的行使(proactive exercise)と呼ぶことができよう。
② 中国が対象国に地経学的手段を使用した場合に、これに反撃して中国に対して地経学的手段を行使する場合。これは地経学の対抗的行使(counter exercise)と呼ぶことができる。
③ やはり中国が対象国に対して地経学的手段を使用した場合に、有志国が協力して中国を非難し被害軽減のために協力を行うという場合。これは地経学の緩和的行使(mitigating exercise)と呼ぶことができよう。

緩和的行使は対抗的行使との併用も可能

「自由連合基金」はこの3つ目の地経学の緩和的行使に該当する。緩和的行使は、状況に応じて対抗的行使と併せて行使することも可能である。

「自由連合基金」は、中国への反撃というより有志国間での痛みの共有である。しかし、これを通じて強い連帯と明確なメッセーが発せられれば、中国の「経済的恫喝」に一定の抑止効果も持つ。中国の「経済的恫喝」がますます活発になる中、有志国の連携強化は喫緊の課題であり、「自由連合基金」はそれを達成するめの有効な手段となりうる。

地経学的手段は、目的達成の方法としては血を流す戦争よりも望ましいものだが、そのハードルの低さのゆえに過剰な使用のリスクをはらむ。「自由連合基金」は過剰な地経学的手段の行使への対策であり、間接的に有志国自身にも自らの地経学的手段行使の適切性を省みる契機を与える。「経済的恫喝」のないルールに基づく自由で公正な国際秩序は、有志国と中国の双方にとってより望ましい世界であろう。

(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)

地経学ブリーフィング

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT