幸い、2019年春にロシアとウクライナが争った事案において、パネル(紛争処理委員会)は安全保障の例外も無制限ではなくパネルの管轄に服すとの判断を示したが、安全保障の例外を含めて、貿易に関連した「経済的恫喝」を効果的に縛るためにはWTOルールのさらなる強化が望ましい。また、現行のWTOルールでは(公的補助金の定義が狭く)補助金を用いた中国の略奪的貿易慣行を効果的に防げていないといった問題もある。
ただ、160カ国以上が加盟するWTOルールの改正は容易ではない。また、紛争解決機能についても、日本に対するレアアースの輸出制限では、日本はWTOのパネルと上級委員会で勝利したが、2010年の事案発生に対して勝訴確定は2014年8月と時間がかかった。
加えて、現在WTOの上級委員会は任期を迎えた委員の後任が選任されず、昨年の12月より最低必要人数の3人を切り、機能を停止している。こうした状況下、国際ルールの整備・強化は極めて重要であるが、それだけでは不十分であろう。
中国への依存度低下と有志国の連携
2つ目は、中国に対する経済的依存度を低下させることである。COVID-19を契機にサプライチェーンの中国依存への警戒が高まった。サプライチェーンの問題は、効率性(efficiency)と強靭性(resilience)のトレードオフに関して、民間企業が自ら考える最適点を超えて、政治としてどれだけ政策誘導や規制を行うかが焦点となる。
強靭性を高めるためには、一定の在庫の確保、危機時にも輸出制限を行わないという関係国間での約束などさまざまな方策がありうるが、製造大国である中国への依存が極めて高い現状につき、品目の重要性を考慮しながら、投資先分散や国内回帰で依存度低減を進めることは有効な政策となる。しかし、中国への政策的な依存度低減は効率性の低下を通じて投資国(貿易相手国)にもコストが生ずる。
したがって、依存度の低減には限界があり、これのみに依拠することはできない。また、販売先としての中国市場への過度の依存を是正することも「経済的恫喝」への耐性を高めるために重要だが、これも、中国という巨大市場から得られる経済メリットを限定するというコストを伴う方策であり「全面デカップル」は非現実的であることから、本措置のみでは不十分である。
3つ目は、有志国が助け合うことで「経済的恫喝」の悪影響を緩和するとともに中国に対しても「経済的恫喝」の安易な使用を牽制する方策である。中国は個々の国を選び「経済的恫喝」を行うため、アメリカ以外の国にとり、自国よりも巨大な中国に経済的圧力をかけられる構図となる。価値観を共有する有志国が連携することで、この経済規模の大小を逆転できる。では、この有志国の連携は具体的にどのように達成できるか。
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