香港市民を救え!開き始めた台湾の保護傘計画

人権派弁護士や牧師が活動家の自活を支援

黄弁護士は失望することはあっても、いまだ絶望はしていないという。それは若い抗議者も同じだ。黄弁護士は台湾に滞在する香港のデモ参加者たちのために「保護傘計画」を発表した。この計画には黄牧師も関与し、黄弁護士と多くの議論を交わした。

逃亡してきた香港人が台湾で合法的に長期滞在するために、2つの道を開く必要があった。1つは学生としてビザを取得できるようにすること。もう1つは就労ビザの取得だ。

台湾で外国人が就労ビザを取得する条件は、『就業服務法』にもとづき、専門性もしくは技術性のある仕事につき、かつ平均月収が4万7971台湾ドル(約17万4000円)以上でなければならないことだ。しかし、黄牧師は「台湾にいる香港人の中には、(ビザの条件を満たす)仕事に就くのが困難な人もいる」と話す。

だからと言って「台湾に来た香港の抗議者は難民ではない」と黄弁護士は考える。そこで生まれたのが保護傘計画で、台湾に逃れてきた香港人の拠り所を作ろうとしたのだ。黄弁護士はかつて台湾大学で学び、同窓生には馬英九・前総統がいる。土地勘のある台北を保護傘計画の拠点とし、香港のデモ参加者たちがビザを取得して台湾に長期滞在できるようにしたのだ。

「今は香港のために学びたい」

保護傘計画は、今後は貿易業やアパレル業にも進出し、香港の同胞に職と仮住まいの宿を提供。台湾での生活を安心して送れるようサポートしていきたいとしている。

台湾にいる香港の抗議者を支援していたのは保護傘計画だけではない。保護傘計画に賛同した香港の「星火同盟」という組織も資金援助をしていた。 星火同盟は2016年に結成され、クラウドファンディングを通してデモの逮捕者の保釈金や医療支援、法律相談などのサポートをしていた。

だが2019年末、星火同盟が集めた寄付金7000万香港ドル(約9億6000万円)が当局により凍結された。保護傘計画もその影響を受け、黄牧師によると、「星火同盟の資金が凍結されて以来、保護傘の経費は黄弁護士と個人の支援者によってまかなわれている」という。

香港から逃れてきたイヴァンさんも、以前は保護傘計画のサポートを受け、そこで黄弁護士と出会った。黄弁護士は、知り合って間もないイヴァンさんのために支援を惜しまなかったという。イヴァンさんは「私は黄弁護士のことを尊敬している。彼のようにお金も権力もあり、台湾での身分も保証されている人なら、のんびりと人生を送ることもできるのに、私たちのためにこんなに力を尽くしてくれて……」と黄弁護士に感謝の気持ちを表す。

イヴァンさんら「香港からの旅行者」は台湾ですべきことが2つあると考えている。1つは自活、そしてもう1つはたとえ心が痛んでも香港から目をそらさないことだ。そのために、イヴァンさんたちは抗議者たちが安心して暮らせる環境作りに励んでいるのだ。イヴァンさんは「もし私達が何もせず、デモのことを忘れてしまったら、何のために台湾に来たのかわからない。次の一手のために今は時間が必要だ」と話す。

将来、イヴァンさんが香港に戻れる日が来るかどうかはわからない。だが彼はもう覚悟ができているという。イヴァンさんは香港の大学の理工科で学んでいたが、台湾では政治を学びたいと考えている。現在、外国籍の学生が台湾の大学に進むための予備教育課程に在籍し、進学に備えている。イヴァンさんは「以前は、勉強は将来食いっぱぐれないためにするものだと思っていた。今は香港のために学びたいと思う」と話す。

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