米中関係はいよいよ6月末以降一段と悪化する 最悪の場合、貿易合意の破棄に発展の懸念も

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アメリカ側の情報だけを見ていると、これまでの米中貿易交渉に関しては、高関税によって経済的な苦境に立たされている中国側が、大幅に譲歩したような印象を持ってしまう。だが、再選のために何としてでも農産物を大量に購入してもらいたいトランプ大統領が大幅に譲歩、知的財産権や人権問題など、中国側が触れられたくない問題を全て先送りにして、かろうじて第1弾の合意をまとめたというのが実態ではないか。

その後すぐに新型コロナウィルスの感染拡大問題が浮上したこともあって、これらの問題を協議するとしていた第2段階の交渉はほとんど進んでいない。おそらくトランプ大統領は、農産物を購入したもらいたい一心でウイグルでの収容所建設を「後押し」するような発言をしたのかもしれない。

真偽はともかく、ボルトン氏の暴露本で取り沙汰されている以上、前出のようにある程度厳しい姿勢で臨まなければならなくなったのは間違いない。2020年初までは貿易合意をまとめ上げることが株価の上昇につながり、自ら再選を強固なものにするとの方程式が成り立っていたのが、新型コロナの感染拡大に伴う景気の大幅な落ち込みによって、すべての計画が台無しになってしまった。

休止していた「米中戦争」が再度勃発する恐れも

実際、経済成長や雇用の拡大を再選のための宣伝文句として使うことが出来なくなったトランプ大統領は、最近は中国に対する批判を改めて強めるようになってきた。曰く、経済が落ち込んだのは新型コロナの感染拡大のせいであり、感染が拡大したのは中国に責任があるという論法である。

経済の大幅な落ち込みは、現職の大統領にとって、再選に向けての大きな障害となるのは間違いない。そこで中国を悪者にすることで人々の注目をそらし、自らへの批判を弱めようというのだろう。ここへきて株価が急速に回復してきたこともあり、このところは中国に対する攻撃もやや影を潜めていた感があるが、新型コロナの感染が再び拡大するとの懸念からもし株価が再び調整局面を迎えるなら、中国に対する強硬姿勢を改めて強めることも十分にあり得る。

トランプ大統領は、効果がより大きいと判断すれば、それまでの方針をいとも簡単に覆すことのできる人間だ。これに関しては賛否が分かれるかもしれないが、少なくとも株式市場に関しては、そうした方針転換が良い結果をもたらすことが多かったのも事実である。対中問題に関しても、貿易合意の維持や中国による農産物の買い付けよりも、中国に対する圧力を強めることのほうが自らの再選に有利になると考えれば、いとも簡単に貿易合意を諦めてしまうのではないか。

香港やウイグル問題に関して、他国の干渉を断固として拒否する中国と、中国に対する強硬姿勢を強めているトランプ大統領の言動を見る限り、この先米中関係が更に悪化する可能性は極めて高い。中国側が農産物の購入停止に踏み切れば、アメリカは貿易合意を破棄し、中国製品に対する制裁関税を改めて賦課することも十分に考えられる。新型コロナ問題の陰に隠れ、注目を集めることもほとんどなくなっているが、アメリカによる多くの国や地域との貿易戦争は、昨年までの市場における一番のリスク要因であったことは、忘れるべきではない。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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