ポストコロナ「日本の対中投資戦略を再考せよ」 「新冷戦」下で日本企業が成功するための要諦

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難しい舵取りだが、成長余地は十分に残されている(写真:fotoVoyager/iStock)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

「新冷戦」がもたらす日中関係の2重構造

昨年3月、北京の財新(独立系リーディングメディアグループ)の顧問会議に同席していたアメリカの元財務長官ローレンス、サマーズ(Lawrence H.Summers)が、「米中はともに大国のプライドがあり、第三者の意見を潔く受け入れない。今後の米中摩擦の悪化を憂いている」と放った言葉が印象に残った。

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貿易協議の波乱、アメリカ政府による中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)排斥などがその後起こり、コロナ禍が発生するに至っては、ウイルス危機責任問題、香港、台湾問題など中国の「核心的利益」と言われる地政学的領域においても、対立が決定的になり、サマーズの心配が現実のものとなった。世界は、米中対立を軸とした「新冷戦」に突入したと言ってよい。

この「新冷戦」の本質は、中国が「アジアにおける安全保障体制の確立と世界における影響力の浸透を目指し」、それをアメリカが「世界秩序への挑戦」(ホワイトハウス「中国に対するアメリカの戦略的アプローチ」)と受け止めている点にある。従い、軍事力やそれを支えるハイテクが対立のベースになり、長期間続くと見たほうがいいだろう。

2016年3月、アメリカ商務省は中国ZTE社を規制の対象とした「エンティティリスト(EL)」を公表、その後、ファーウェイなど軍に関係しているとみられる多くの中国企業がELに名を連ねた。そこに至り、米中ハイテクディカップリングは現実のものとなった。ELは、規制に関係するすべての企業が対象になるため、影響は日本など先進国諸国に広く及び、諸国の対中国ビジネスの再考が迫られている。

今後、対中国貿易や投資はどうなるのか。21世紀初頭、中国のWTO加盟を機に、世界経済はグローバリゼーションが加速され、貿易額は約6.4兆ドル(2001年)から約19.2兆ドル(2018年)と3倍強になり、中国を核とした巨大なサプライチェーン網が世界規模で構築された。

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