電車の「顔つき」を左右する決定的要素とは何か 貫通扉、表示幕、窓の形状…、さまざまな要因

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縮小

ところがJR発足後、ロングシートのみの通勤形においても車内空間を広げ、混雑緩和を図るという考えから拡幅車体を採用するようになった。この時代になると、都市の外縁化で通勤距離が延び、通勤形と近郊形を分ける合理的な理由がなくなったからで、車体構造を共通化する目的もあった。JR西日本の207系が最初で、JR東日本も京浜東北線に投入された209系はストレート車体だったが、中央総武線ほかに展開する段階から拡幅車体に切り替えた。

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拡幅車体の一派では、JR東日本は座席の腰の部分をゆったりさせる観点から、E653系からの特急用車両では台枠部の垂直線の上で急に幅を広げる独特のコンタ(輪郭線)を採用している。床下空調としたE257系では、そのダクトを通すのにこの膨らみによる余裕が活用されている。

その一方、地下鉄はトンネル断面の大きさが建設費を左右するため建築限界を小さく定める場合が多く、車体幅を広げられない。したがってJR東日本のE231系やE233系は拡幅車体が基本だが、同一シリーズ内の東京メトロ東西線や千代田線直通用の車両だけはストレート車体を採用している。顔の印象は明らかに違う。

ちなみに、限界に比較的余裕がある国鉄車両は雨樋を車体の横に張り付けた姿が多かったが、私鉄車両は外板自体を限界まで広げるため、雨樋は肩に乗せて断面の内側に収める「張り上げ屋根」と呼ばれるスタイルが多かった。

視野を画期的に広げた営団6000系

それでは顔の中のパーツを見てゆこう。第一に目立つのは窓。かつて湘南形として一世を風靡した二枚窓は中央に窓柱が通るので、目鼻立ちがはっきりしている。それに対して1枚や3枚の奇数の場合、鼻筋と呼べる部分がないせいか、シャープさが影を潜める。

運転士の視界を広くするには、窓はある程度大きいほうがよい。そこでセンセーショナルと言えるほど画期だったのが先例に挙げた営団6000系。地下鉄のトンネルは車体が収まるぎりぎりの断面積となっている。したがって、車両側でも非常時の脱出を考慮して先頭車両には非常口が必須だが、車両同士の貫通が目的ではないのでそれを正面左にオフセットして、運転席周りを広げ窓も拡大、行先表示幕などもガラス内に収めた。

当時は相当な衝撃をもって受け止められたが、理にかなった設計であり、その後、有楽町線7000系、半蔵門線8000系と継承され、他の地下鉄や私鉄でも珍しくなくなった。

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