電車の「顔つき」を左右する決定的要素とは何か 貫通扉、表示幕、窓の形状…、さまざまな要因

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国鉄時代は車両においてもコストやメンテナンスが重視されて、電車の顔のデザインもその範囲で収まった。特急電車であっても全国的に同じ顔が基本であったから、数の多い通勤形・近郊形電車については、色の違いを別にすれば見事なまでに同じ顔をしていたものである。また、私鉄の車両を見渡しても、ロマンスカーのような車両はともかくとして顔のつくりに大きな違いはなく、むしろステンレス車両など、車体材料による顔立ちの違いが際立ったようである。

電車の顔が大きく変わったのは、まずは1968年に試作車が登場した営団地下鉄(現東京メトロ)千代田線の6000系電車が挙げられる。それまで当然だった左右対称が打ち破られた。現在まで続く前面窓の特大化や一枚化の流れは、このときに始まったと言える。さらにその後、1980年代半ばも1つのエポックを築いていると考えられる。きっかけは新幹線の100系電車であり、近鉄のアーバンライナーであったことだろう。新幹線の新しい顔であった100系に比べ、アーバンライナーは円柱を斜めに切り取った形の前頭形状と大きな曲面ガラスのために、ユーモラスなファニーフェイスと言えた。

窓が大きく そして曲面に

最近の電車の顔は、やはり窓の大きさがポイントになってきている。通勤電車でも前面上部を黒でまとめた201系までは国鉄の顔であったが、JR以降は窓が大きくなり、かつ曲面を生かしてボリューム感のある顔をつくっている。断面形状そのものは角ばっていても、曲線が入ると顔らしく見えてくる。三次曲面は鉄道よりも他の分野のデザインですでに多く取り入れられていたが、これの採用が可能になったことが電車の顔を豊かにしたとも言える。

この「三次曲面」の言葉は、いささか捉えにくい。よく言われる三次元とは平面に対する立体のイメージであるが、三次曲面とは平面によってつくれない形のことをいう。つまり、1枚の紙を丸めると円柱になり、その側面を切り取ると曲面になっている。しかし、1枚の紙から球体は作ることができない。円柱の表面を切り取った面が二次曲面であり、球の表面を切り取ったのが三次曲面である。

三次曲面は、ガラスだけではなく、ガラスがはまる車体のほうにも取り入れられている。鉄道車両の車体は、かつては骨組みに鋼板を貼り合わせていたが、先頭部の丸みのある造形などは内部から人が木槌で叩いて成形する手作業を伴うことが多かった。しかし、アルミ素材のものではコンピューターによる精密な成形作業が可能になって、複雑な曲面の仕上げも正確に処理できるようになっている。

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