所有者不明の土地が続出する被災地の実態 シリーズ用地買収① 復興を止めているものは何か
東日本大震災の被災地で、用地買収の難航による復興事業の遅れが深刻な問題になっている。津波によって震災前にあった住宅の5割以上が全壊または大規模半壊の被害を受けた岩手県大槌町では、住宅建設のスピードがなかなか上がらないことから、人口の4割近い4100人余りの住民が現在もなお、仮設住宅での生活を余儀なくされている。
細長いナスのような形をした大槌町では面積の大部分を山林が占めており、平地が少ない。そのため復興事業では防潮堤の建設や土地のかさ上げを伴う区画整理事業だけでなく、住宅の高台への移転を柱とする防災集団移転促進事業(防集事業)が多くを占めている。
その防集事業が今、大きな困難に直面している。
買収予定地の中で所有者がわからなくなっていたり、相続手続きの終わっていない土地が数多くあることが判明。町内のある地区では、江戸時代末期の文久年間に生まれた男性が所有者のままになっている土地が見つかった(表参照)。
別の地区では大正時代の抵当権が現在も設定されたままになっているうえ、4名の債権者のうち1名の特定に時間がかかっている。町がこの地区で買収予定地となった墓地の登記簿謄本を調べたところ、表題部(所有者欄)に「◎◎(実名)ほか4名」とだけ記載されていた。「ほか4名」を探し出して相続人を特定しなければ、そもそも土地を取得することができないという問題に直面している。
「土地の取得が進まなければ、高台移転に支障が生じかねない」(青木利博・都市整備課長)と用地買収を担当する町幹部は焦りを強めている。
高台移転が難航している3つの理由
大槌町では、防集事業として町内の5地区で727宅地の整備を計画している。しかし、これまでに購入希望者の募集にこぎ着けたのは17宅地だけで、用地の取得ができたのは震災から3年後の3月11日現在でも計画面積の48%にすぎない。この中には震災前まで野球場や公園だった町有地も含まれており、実際に買収できた民間の土地は少ない。
防集事業が難航している理由はいくつもある。まず第一に、山林や畑、墓地などではもともと相続手続きが行われていないケースが多いことが挙げられる。このことは東北地方に限ったものではない。第二に、防集事業で50戸未満の場合は土地収用の対象とならないため、通常の方法で土地を取得できない場合に有効な問題解決の手段がない。そして第三に、必要な作業量に対して自治体の職員数が圧倒的に足りないことが挙げられる。
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