“コロナ自粛"で患者激減、歯科医療の存続危機 都内では4月の診療報酬「3割減以上」が半数

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5月27日に閣議決定された第2次補正予算案では2兆円を上回る金額が、医療分野に振り向けられることになったが、その多くはコロナ患者を受け入れている医療機関やスタッフなどに配分される。

その一方で、歯科診療所に対しては、第2次補正予算で盛り込まれた支援メニューのうち、職員への慰労金5万円および感染防止対策の補助金(上限100万円、実費払い)などにとどまる。診療報酬が落ち込んだ分の補填はなく、その一部についての診療報酬の概算前払いや、福祉医療機構からの無利子無担保融資などで対応するとされている。

全国保険医団体連合会の住江憲勇会長は、「経営が苦しく、夏のボーナスを払えないという医療機関もある。感染の第2波、第3波が押し寄せたときに、診療のモチベーションを維持できるのか不安が尽きない」と指摘する。

歯科技工所も存続の危機

歯科診療所とともに厳しい状況に追い込まれているのが、歯科診療所から注文を受けて義歯(入れ歯)や補綴物(かぶせ物)の製作を専門に行う歯科技工所だ。東京・板橋区内で営業するアースデンタルの川野博社長によれば、「5月の売り上げの落ち込みは前年同月比7割にも達した。多くの歯科診療所が患者数の激減もあって長期間の休診となったことが響いた」。

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単月の売り上げの落ち込みが5割を超えた場合、持続化給付金の支給要件(法人の場合の給付額は200万円)に該当するが、「人件費や家賃などの固定費だけでも月に500万円に上る。給付金はありがたいが、それだけで落ち込みをカバーできるわけではない」(川野社長)という。

そのうえで川野社長は、「このままでは体力のない技工所から順番に経営が成り立たなくなるのではないか」と業界の先行きを危惧する。

歯科医療の重要性は近年、内科や呼吸器科などの一般診療においても認識されるようになっている。高齢者に口腔ケアを実施した場合、それをしなかった場合と比べてインフルエンザの発症率において10分の1以下にとどまるという研究結果がある。また、外科手術の前の口腔ケアについても、肺炎など術後合併症の予防に取り組む医科医療機関は少なくない。

つまり、口腔内の健康の維持は全身の健康とも深くかかわっている。定期的な通院も同様に、全身の健康状態の維持と深く関係している。

歯科医療を受ける側としても、歯科の感染予防の実態を認識したうえで必要な治療をしっかり続けることが求められている。そのことが歯科医療の崩壊を防ぐ手立てにもなる。 

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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