東宝、映画館再開でも全く安心できない事情 演劇の地方公演中止、映画製作もストップ

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映画館にこだわっていると、東宝といえども足元をすくわれる可能性は否定できない。コロナ後の映画ビジネスを占うような、新しい動きも出ている。

東宝のライバルであるKADOKAWAと松竹は4月、両社が共同で配給した「Fukushima 50」を映画館で公開と同時にAmazonプライムなどで期間限定でネット配信した。2日間にわたってレンタルが可能な仕組みで、料金は映画でのチケット代に近い1900円。通常、DVD化やテレビ放送、配信などは映画館での公開から時間を置いて行われることが慣例だが、Fukushima 50はこれを破った格好だ。

映画会社にとってネット同時配信は「禁じ手」

通常の映画配給では、興行収入を映画館と配給会社が半々で分け合う。興行収入が20億円の場合、配給会社は10億円程度を得る。配給会社はそこから宣伝費など諸経費を差し引き、もしそこで利益が出なくともDVDや配信権の販売などで補う。しかし、ネット同時配信の場合は、映画館と興行収入を分け合う必要がなくなり、配給会社や出資者により多くの取り分が残る。

東宝は映画館の営業再開に合わせ、感染予防の取り組みを顧客に呼びかけている(編集部撮影)

だが、映画会社にとって、Fukushima 50のような動きは「禁じ手」(映画会社幹部)だという。実際のところ、Fukushima 50以降、映画館で放映中の作品をネット配信する動きは非常に少ない。

その理由は大手映画会社が映画館も運営しているためだ。配給会社としては多くの利益を生むネット同時配信だが、映画館の運営会社にしてみれば優良コンテンツを独占できないことになる。映画館の需要を食いつぶしかねないため、多くの映画館を持つ東宝のような会社はネット同時配信に消極的にならざるをえないのだ。「配信でFukushima 50が大ヒットして、映画館がいらないということになるのは困る」(前出の関係者)。

東宝は「東宝が配給する作品は、最も投資回収率の高い『映画館』という窓口で興行を行うことを前提に製作している。配信を前提とした作品が増える可能性はあるが、(映画館と同時に)同時配信を行う予定はない。」(同社広報)としている。配給会社として最大手で、傘下に映画館を抱える東宝がネット同時配信に乗り出す可能性は低いようだ。

とはいえ、映画館を取り巻く環境や映画ファンのニーズはかつてないほど激変している。「コロナ後」の映画ビジネスをどう作り上げるのか。映画業界の雄・東宝の具体的な次の一手はまだ見えない。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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