東宝、映画館再開でも全く安心できない事情 演劇の地方公演中止、映画製作もストップ

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演劇は2月28日から公演中止が始まり、16もの作品が中止になっている。緊急事態宣言は解除されたが、稽古などには準備期間が不可欠なため、7月までの公演中止が決まった。

映画も同様に厳しい。東宝傘下のTOHOシネマズでは、7都府県で緊急事態宣言が発令された4月7日以降、当該地域の32館が営業休止に。緊急事態宣言が全国に拡大した4月16日以降は、共同経営含め70館が休館となった。

2019年に興行収入93.7億円を叩き出し、同年の邦画2位を記録した「名探偵コナン」は、2020年4月公開予定だったが、2021年4月に映画の公開が延期された。

こうした状況によって、2020年3~5月には映画事業と演劇事業合わせて113億円あった営業利益の大半が失われた計算だ。とくに、演劇事業は9月まで一部の地方公演は中止になっており、今後どこまで影響が拡大するか見通しが立っていない。

映画館の座席は半分も埋まらない

TOHOシネマズでは、前後左右に1席ずつ間隔を空けて座席を販売するため、販売座席数は通常の半分程度になる。映画館を再開したとしても、売り上げの大幅な減少は避けられない。

東宝の広報担当者は「ヒットする新作の公開もされていないため、(座席数が半分になっても)すべてが埋まることはあまりないだろう」と語る。映画館が再開されても、今後また新型コロナの感染が拡大すれば休館せざるをえない可能性は残っており、苦境は続いている。

競合に目を向けると、松竹の場合、利益の柱はオフィス賃貸を中心とした不動産事業だ。同事業からあがる営業利益が全体の6割超を占め、歌舞伎や映画事業を支える形になっている。東映も、子会社である東映アニメーションのアプリゲームなど、版権事業が営業利益の半分以上を占める。

これに対し、東宝は「名探偵コナン」や「ドラえもん」など、毎年ヒットが期待できる映画作品が多い。さらに、東宝傘下であるTOHOシネマズなど映画館の規模も大きい。

松竹が運営する映画館が27館、東映が25館であるのに対し、東宝は74館(共同経営含む)と3倍近い大きさだ。2020年夏には17.5億円を投じて池袋で新しい映画館をオープンするなど、映画館ネットワークはさらに広がっている。

しかし、映画館の多くは休業中も家賃などの固定費がかかるため、映画館数が多いと、こういう事態においてはその固定費負担が重荷となる。ある映画会社の社員は「(自社と比べ映画館数が多い)東宝はその分だけ苦しいだろう。うちはまだマシだ」と話す。

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