バタバタと自主廃業、電炉を悩ます「四重苦」 五輪特需に沸くはずの建設用鋼材メーカーに異変

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とりわけ深刻なのが、需要の長期低迷だ。電炉が生産する鋼材の大半は、鉄筋など建築向けの品種。建築需要の減少につれて、電炉鋼材の生産量は90年度の3553万トンをピークに、12年度は2445万トンまで減少した。

今後数年は、東京五輪に向けた老朽インフラの更新需要や都心再開発が控えている。「数万トンの鋼材を使うような大型の再開発案件がゴロゴロしている。こんな好景気は、業界に30年いて、初めてだ」(阪和興業の高田幸明・条鋼建材第二部部長)。

とはいえ、足元の建設ラッシュも五輪までの一過性のもの。長期での需要減退傾向は変わらない。経済産業省の調べによれば、日本国内にある電炉340基の稼働率はたった59%(13年3月末時点)。鉄鉱石と石炭から大量の鉄を造る新日鉄住金などの高炉メーカーが90%近い稼働率を維持するのとは対照的だ。

加えて、原料である鉄スクラップ価格が、国内の鋼材需要とは無関係に乱高下するようになったことも、電炉の経営を圧迫している。

90年代には1トン当たり2万円を超えることがなかったスクラップ価格は、00年代に入ると状況が一変。韓国や中国で鉄鋼生産が増えたことで、日本国内からのスクラップ輸出が急増した。さらに、国内の高炉メーカーも生産の調整弁としてスクラップの使用量を増やした。04年に3万円を突破してから、スクラップ価格は高値圏で推移している。

電気代上昇が追い打ち

これに追い打ちをかけたのが、東日本大震災以降の電気代上昇だ。この20年ほど、電炉各社は電気代の安くなる夜間にだけ生産する「フクロウ操業」を続けてきた。ところが、夜間発電量の多くを賄ってきた原発が全基停止したことで電気代が上昇。業界団体の普通鋼電炉工業会は、「会員企業32社だけで、年間の電気代が340億円の負担増になった」(中島正弘・事務局長)と試算する。

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電炉は主に建設用の鋼材を生産している(撮影:尾形文繁)

もろもろのコスト増は、高炉鋼材に対する電炉鋼材の価格優位性を薄めることにつながった。これまで大三製鋼のような独立系メーカーは少量多品種のオーダーメード生産で差別化と生き残りを図ってきたが、大量生産の高炉鋼材に徐々にシェアを奪われた。

こうした状況は、大手も同じ。12年度には電炉最大手の東京製鉄が09年に稼働したばかりの新工場をほぼ全額減損し、1466億円の最終赤字を計上。中堅の朝日工業も、需要低迷や大雪の影響を受け、13年度は110億円の最終赤字となる見通しだ。

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