日本人に知ってほしい「抗議デモ」の根深い真因 なぜ抗議活動は世界的な広がりを見せたのか

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その後の司法においても、不当な扱いがある。陪審員が判決に大きな影響力を持つアメリカの司法では、陪審員の人種構成が判決に影響を及ぼすことがある。

陪審員の人種構成は、その地域の人種構成が反映される。黒人やヒスパニック、アジア系が多い地域が一部にあるとはいえ、アメリカ全体で見れば約60%が白人系である。そのため、陪審員の判断には「白人バイアス」がかかるのだ。すなわち、容疑者が白人の場合は無罪になりやすく、黒人の場合は有罪になりやすい。

2019年にアメリカで公開され、オバマ前大統領が2019年のベスト映画と評した『黒い司法 0%からの奇跡』は、1980年代にアラバマ州で実際に起きた黒人死刑囚への冤罪事件について描かれた実話だ。黒人容疑者が、ウソで固められた白人の証言を信じた陪審員により、死刑囚に落ちていく悲劇が描かれている。

この映画(実話でもあるが)では、最後は弁護士の力で冤罪が証明されて無罪となった。しかし、過去に冤罪で極刑に処せられた黒人は相当数いるのではないだろうか。

黒人は警察や司法に対して、疑念を抱いているといってよい。いったん逮捕されると、黒人であるというだけで容疑者から犯罪者に簡単に落ちてしまう。

警察、司法だけでない。黒人妊婦は十分に医療を受けられないため、出産の際に命を落とす危険が白人妊婦よりもはるかに高いという。また、警察官でない、一般人による黒人へのヘイトクライムも根絶していない。

さまざまな事業を展開しているケニア人の友人は「最大市場のアメリカに住みたいが、自分は黒人なので、つねに暴力にあう危険と対峙しないといけない。そのような不安を抱きながら生活はできないので、アメリカでの居住はしない」と語っていた。重い発言である。

収監されて、場合によっては極刑すら科されてしまう恐怖、日常的に何らかの暴力を受ける可能性があるという恐怖は、立場によって程度の差はあるが、黒人の間に依然として存在している。このような恐怖感を、できるかぎり理解することが重要だ。

アメリカにおける人種差別は、単に就職などの社会生活におけるものではない。暴力を受け、命すら危険にさらされる、大きな人道問題なのである。

追い詰められる白人労働者階層

このような黒人の置かれた立場に対峙する、白人の労働者階級の被害者意識の視点を持つことも重要である。なぜなら、これら比較的低所得の白人は2016年にトランプ大統領を生み出した原動力の1つであり、現在のトランプ大統領の発言もこれらの支持層を意識したものになっているからだ。

白人の労働者階級の苦境を象徴する例に事欠かない。

世界各国のあらゆる階層で寿命が延びている中で、アメリカで大学を卒業していない白人の寿命が短くなっているのである。しかも、その要因は「薬物」と「アルコール依存」だと言われている。

また、さまざまな世論調査によると、アメリカで最も厭世的傾向にある社会集団は白人労働者階層であるとも言われる(白人労働者の苦境を分析したベストセラー、J.D.ヴァンス『ヒルビリー・エレジー』)。

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