日本人に知ってほしい「抗議デモ」の根深い真因 なぜ抗議活動は世界的な広がりを見せたのか
バラク・オバマ前大統領は「平和的に規律正しいやり方で変革をもたらそうとする人々に対し、われわれは感謝するべきだ」と述べており、暴動や略奪とは違う平和的な抗議デモについては評価している。
第3に、本来は社会の分断を抑えるべき立場であるドナルド・トランプ大統領が、抗議デモを敵視する姿勢を崩さず、事態の悪化を招いていることだ。
ジェームズ・マティス前国防長官は「ドナルド・トランプは私の人生で初めて、アメリカ国民を団結させようとせず、その素振りさえ見せない大統領だ。その代わりに、彼はアメリカを分断しようとしている」と述べている。社会の分断をここまで煽る大統領は、おそらくアメリカ史上初であろう。
トランプ大統領は、抗議デモの一部を極左団体である「ANTIFA」が扇動しているとして、ツイッターにおいて、同団体をテロ組織にする可能性にすら言及した。
ANTIFAとは、1930年代のドイツに源流がある反ファシスト団体である。アメリカでは2017年のトランプ氏の大統領就任後に活動を活発化させ、白人至上主義者やネオナチの運動と衝突する事件が起きている。
現時点では、ANTIFAがどの程度、抗議デモや暴動・略奪を主導したのかは証拠がなく、不明である。しかし、暴動を扇動しているとされたANTIFAのツイッターアカウントは、実は白人至上主義者のなりすましであったことがわかっている。
ANTIFA関係者が抗議デモに参加している事例はあるであろうが、テロ組織に認定される行為を行っている点については、単にスケープゴートにされている可能性が高い(そもそもアメリカでは、国内組織をテロ組織として認定することの法的ハードルは高い)。
新旧国防長官が大統領を批判する異常事態
また、トランプ大統領が一時、事態の鎮圧のために「連邦軍の派遣も辞さない」と発言したことに対しても、政権内部からの批判も強い(現在は連邦軍の派遣についてはトーンダウンしている)。
マーク・エスパー国防長官は「軍を動員するという選択肢は最後の手段とすべきで、極めて緊急性が高く、切迫した状況に限定する必要がある。今の状況はそれには当てはまらない」と述べている。
現職と元職の国防長官が大統領を厳しく批判するのは異例である。トランプ大統領の言動は、共和党内部、政権内部も分断しているのだ。
今回の事件の背景には、コロナ禍による人々の失業・生活苦などがあることは間違いない。同時に、黒人・白人双方の被害者意識があることを見過ごしてはならない。「アメリカの黒人への人種差別はいまだ深刻なので、何とかしないといけない」と言った程度では、背景の一部をとらえたにすぎない。
アメリカでは近年でも、黒人であるがゆえに警察官から不当な扱いを受ける事例が断続的に発生している。突如として容疑をかけられ、収監されるのだ。
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