日本人が知らない英国「コロナ病棟」のリアル 現地在住看護師が語る医療崩壊を防ぐ仕組み

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新型コロナ患者が増え続ける中、新たにいくつかの感染病棟が院内に設置され、その中には外科専用の新型コロナ感染病棟も用意された。患者の増加率や入院パターンに合わせて病棟数や形は変わっていった。実際に私も途中で別のコロナ病棟異動をさせられ今に至る。

無謀にも見えたこのチーム編成だが今までを振り返ってみて大成功と言える。最大の理由は、サポートやバックアップが厚いことだ。通常、医師チームが病棟に1日常駐するなどありえない。ところが、新型コロナ感染病棟では内科上級医さえも1日、病棟に常駐している。

看護師にしても同様だ。患者の受け持ち数は通常の内科病棟の半分近く。わからないことがあれば、すぐに内科看護師のサポートが受けられる。看護助手も多く配置されているので、看護師業務に専念できる。医師も看護師も、病欠を見越して十分な人数が確保されていたので皆が、「自分の本来の業務よりもラクだ」と感じている。

寄せ集め医療チームは一様に、本人の意思とは無関係に新型コロナ医療の前線に送られ、感染への恐怖に加えて、専門外の内科が務まるのか不安を抱えていた。だからこそ、互いを理解し、助けあって乗り切ってきた。「仲間」と呼べる存在だ。こうして物理的だけでなく、精神的にも内科と非内科の組み合わせ技で編成された医療チームは現場スタッフに大きなメリットをもたらしたのである。

閉鎖部門の完全な再開は未定

5月半ばにロックダウンが一部解除された頃から少しずつ病院の閉鎖部門も再開の目安が話し合われているが、ソーシャルディスタンスのために、規模をもとどおりにすることは当分無理だろうと言われている。そのうえ新型コロナ患者は減少したとは言え、入院患者は毎日のように来る、現在進行形の問題なのだ。だからこそ病院側でも各部署の完全な再開の予定はまったく未定としか言えない。

閉鎖部門からの医師や看護師は、たいていは専門性の強い分野であり、今は研修中やトレーニング中の立場であることも多い。筆者自身もその1人だが、特に各専門分野での研修医にとっては本来ならこなしているの研修プログラムも遅れ、一時停止状態になったままだ。

各閉鎖部門では手術を待つ患者は増えていく一方で、ウェイティングリストを解消するのは長期戦になるだろう。幅広い患者の受け皿を整えて貢献していくためにも、医師や看護師の1日も早い研修復帰が望まれる。

ピネガー 由紀 イギリス正看護師、フリーランス医療通訳

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Yuki Pineger

日本での看護師免許や勉強経験はなくイギリス義務教育(GCSE)、高等教育A-levelを経てマンチェスター大学看護学部卒業。現在は、イギリス中部に在住してNHSの大学病院に勤務。通常は外科部門に所属して手術前後の患者看護に当たる傍ら、学生指導も担当している(2020年4月から新型コロナ感染病棟に期間未定で異動中)。

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