バランスを取れない不器用な人間もいる
それにしても、ワーキングマザーとは、これほどまでにあれもこれもと器用にバランスを取りながら、賢く生きなければいけないのだろうか?
10年ほど前は、家事と仕事、育児も賢くこなす、いわば緒方貞子さんのような、スーパーウーマンとしか呼べない女性たちの生き方が、しょっちゅう女性誌などで取り上げられていた気がする。
近年は「そんなに頑張るのは無理」とばかりに、仕事と家庭のバランスをどう取るかといった、より現実的な論調が主流だ。ネットでワード検索をかければ、社会の制度や企業の女性の雇用に関する種々の問題点や改善点を指摘したり、女性の生き方や共働きのあり方の指南やアドバイス、または現代における専業主婦という選択肢の新たなあり方を説くものまで、ありがたい先達たちの金言には事欠かない。
とはいえ、これまたハードルが下がったとは言えない気がする。どんな例を参考にしても、そもそも経済面がクリアできなければ、そこから先には進めないといった例は少なくないからだ。結局のところは「ケース・バイ・ケース」の一言に尽きる問題だろう。
何が言いたいかというと、働くことを自ら選んだ、または働かざるをえないワーキングマザーが、まじめに仕事に取り組んだ結果、バランスを取らなくてはならないことは頭ではわかっていても、なかなかできない不器用な人間もいるということだ。
ジャッキーのように、気がついたら問題大ありのワーカホリックになっていたとしても、筆者は彼女をダメな人間だと非難する気持ちにはなれない。もちろん、人生で本当に大切なものを見失っては元も子もないが、仕事がおカネを稼ぐ手段としてだけでなく、少なからずやりがいを感じられるのならば、それはとても幸せなことだからだ。そして女性にとって経済的な自立は、いつの時代にも非常に意味がある。
筆者の周りには、仕事も家庭も子育ても、感心するほどよく頑張っている女性たちがいる。その多くは責任感を持って仕事に臨み、やりがいを感じてもいるが、一方でつねに理想とするワーク・ライフ・バランスについて考えながら、自分は「ダメな人間(母親)」なのではないかという罪悪感を、少なからず抱いているという事実に愕然としてしまう。ワーキングマザーが自らに課す合格ラインのハードルの高さよ!
だから、ジャッキーのように頑張りすぎて何かが狂ってしまう前に、いろんな罪悪感をいったん棚上げしてみてもいいと思う。無責任なことは言えないが、毎日をギリギリのところで頑張っているワーキングマザーが、“上手に生きる”ことをとりあえず先延ばしにしたとしても、誰にも責められる筋合いはないはずだ。
『ナース・ジャッキー』は、アメリカでは『カリフォルニケーション』と同じケーブルテレビ局のShowtimeで4月からシーズン6が放送中。日本では不人気の、おかしくてイタい30分のブラック・コメディとあって(これこそ大人のための娯楽なのに!)、DVDはシーズン1のみの発売と残念なかぎり。WOWOWプライムで、現在シーズン5が放送中だ。
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