マーケットの新常識「適応的市場仮説」の衝撃 今こそ読むべき「オタクで商売人」の最新研究

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今年に入ってからはほんとにいろんなことがあった。新型コロナ禍はもちろん、それに端を発して各種日用品がスーパーから消えた。トイレットペーパーはぼくみたいな年寄りには想定内だったけど、パスタにホットケーキ・ミックスまで消えたのはちょっとびっくりだ。

東京オリンピックに備えて準備を進めねばとか職場で言っていた在宅勤務のインフラが急速に整えられ、会議なんかもどんどんなくなり、すでにもう、「これまでなんのアジェンダで集まってたんだっけ?」なんて思うようになっている。

で、たぶん、人類が叡智と力と資源を結集してコロナウイルスへの完璧な対抗手段を開発したとしても、おそらくぼくらはもとの働き方には戻らないだろう。ぼくらは危機を介して新しい現実に「適応」する。本書『Adaptive Markets 適応的市場仮説』は、そんな適応を扱った本だ。

市場に限っていえば、今年に入ってから一番目立つ異常事態は「マイナスの原油価格」だろう。5月限のWTI先物価格がマイナス37ドルになった。つまり原油を1オンス買ったら37ドルもらえるってことだ。まあ、取引最終が近く、投機筋が荒業を繰り出しあった結果そんなことになってしまったわけだが、そんな異常事態にすら市場もそれを支えるインフラも急速に適応した。

昔々、学校で「金利やモノの値段はマイナスにはなりません。お金は札束をタンスにしまっとけるし、モノは倉庫に置いとけばいいからです」なんて習ったものだが、ファイナンスの授業も新しい現実に適応していくんだろうか。

ぼくが本書の著者アンドリュー・ローという人のことを知ったのはたぶん1990年代の半ば、彼が本書にも出てくるクレイグ・マッキンレイ、それに当時彼ら2人よりもビッグネームだったジョン・キャンベルと出したThe Econometrics of Financial Marketsを読んだときだったと思う。この本が出る前にチラシを見てこりゃ面白そうだと思った。

ちなみにそのとき、職場の人物評の名手から「アグレッシヴなオタク」と呼ばれていた同僚のクウォンツにそのチラシを見せたら、即「この本、ほしいー」と言う。こりゃモノホンだねと思い、注文して入手した。21世紀になってから、この本は日本語でも『ファイナンスのための計量分析』として出版されている。今見たらまだアマゾンで買えるしキンドルでも読めますね。

内容はタイトル通りで多岐にわたるけど、例えば本書にも出てくる分散の比による市場の予測可能性なんかが計量経済学でゴリゴリに論じられている。その後、職場で若者と話をするのに、この本に出てくる内容をときどき(こけおどしに)使った。

オタクかつ商売人であるロー教授の新理論

その後、ぼくの職場にロー教授が講演しに来たこともあった。このときはヘッジファンドと運用スキーム、市場のダイナミックな構造が主なテーマだった。話の概略はこんな感じ。ヘッジファンドは非常に効率的な事業モデルで、超過リターンのある場所や超過リターンが取れる戦略を、ほかに先んじて特定し、それに飛びつく。効率のいい人たちなので、取れるうちに取れるだけ取ろうとし、また後追いする人たちもすぐに追いつく。

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