ポストコロナ「日本は必死で学ぶ必要がある」 「均衡」の概念に基づき文明観は問い直される

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船橋:この危機を乗り越えるためには、「学べることはみんな学ぶ」という態度が肝要です。かつて、学ぶこと、学んだことを改良、改善、発展させることは日本のお家芸でした。しかし、「失われた20年」、30年に近づきましたが、その間に、学ぶことが下手になったと思います。福島の原発事故を検証したとき、それを痛感しました。

日本はチェルノブイリ事故から驚くほど何も学んでいませんでした。事故前の日本の原子力政策はチェルノブイリ事故に関し、「日本では起こるはずはない」「ソ連とは政治体制が違う」「民主主義で透明度の高い日本では、科学は政治に従属していない」「ソ連から学ぶものは何もない」という態度でした。

その日本特殊論と傲慢さがフクシマを引き起こしました。放射能の前ではみんな同じ。私たちは皆弱いのであって、学べることは何でも必死で学ぶべきでした。が、それをしませんでした。

辛勝がベストシナリオの覚悟

船橋:今回も同じです。ウイルスの脅威の前ではみんな同じように弱いのです。感染拡大に比較的うまく対応している韓国や台湾、シンガポールから、学べることは何でも学ぶべきです。好き嫌いもイデオロギーも関係ありません。

いま、求められるのはこの闘いに勝つことだと思います。あえて戦争を比喩にすると、戦勝国になることです。ただ、もはや快勝や完勝は望むべくもありません。優等生になることもありえません。だから、劣等生でもいいからとにかく合格する。しがみついてでも勝つ。

辛勝でよい、中国がかつての抗日戦争に勝利した暁に使った言葉を使うと「惨勝」でよいから勝つ。それが、ベストシナリオだというくらいの覚悟で臨むべきでしょう。ウイルスの前で神風は吹かないし、奇跡も起きない。日本特殊論と訣別し、世界から学び、世界と共に闘わなくてはいけません。

ご指摘のとおり、乗り越えることができなければ、日本は本当に先進国から滑り落ちてしまうかもしれません。

明治維新後の百数十年の歴史の中で、途中で挫折もありましたが、日本が目指して実現した先進国という国の形を失ってしまう。福沢諭吉はそのビジョンを「七福神」と形容しました。それは戦後のG7で実現したのです。その地位とアイデンティティーを維持、発展できるかどうか、私たちは今、その分岐点に立っているのだと思います。

アメリカのジョン・アレン大将(ブルッキングス研究所理事長)は、「歴史はコロナウイルス危機の勝者によって書かれるだろう」と述べました。日本はその歴史を共に書く国際社会の一員でありたいものです。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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