台湾が世界有数のマスク生産大国となった理由 日本に200万枚寄贈はなぜ可能になったのか

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その後、予想されていた通り新型コロナは世界中に広がり、台湾ではマスクを求める市民がドラッグストアなどに列をなした。この状況をみて経済部は、政府主導によるマスクの増産を決定。台湾で2社しかないマスク製造機のメーカー「権和機械(以下、権和)」と「長宏機械(以下、長宏)」に1.8億台湾ドル(約6.4億円)を投じ、マスクの生産ライン60本に相当する60台のマスク製造機を発注した。

洪氏は「通常だと、この2社に60台のマスク製造機を発注した場合、納入までに少なくとも半年以上かかる。しかし、今回はたった1カ月で納品された。それは、業界をあげて技術者を派遣したためだ」と説明する。通常では考えられない短期間での納品の裏で、具体的に何が起きていたのだろうか。

業界をあげての協力体制

経済部長(経産大臣に相当)である沈栄津氏の指示を受け、精密機械研究発展センターの代表・賴永祥氏は2月4日、3つの機械工業系の研究センターから権和と長宏に人材を派遣することを決めた。しかし、翌5日に2社を視察したところ、現場で最も必要とされている機械の組み立てには、研究センターの人員の技術と経験だけでは不十分であることがわかった。そこで、業界全体の支援を求めることを決めたという。

具体的にどこへ支援を求めるべきか。2月6日午前、賴氏が考えあぐねていたところ、思わぬ人物から連絡が来た。台湾の工作機械メーカーで作る団体「台湾区工具機・零組件工業同業公会」(TMBA)の名誉理事長である厳瑞雄(げん・ずいゆう)東台精機会長が協力を申し出てきたのだ。賴氏は「こちらの要請前に協力の申し出があって驚いた」と振り返る。

一方、TMBAで理事長を務める許文憲・哈伯精密(HABOR)会長も独自に行動を開始していた。政府のマスク増産計画を知った許理事長は、すぐさま沈経済部長へLINEをし、必要であれば60台のマスク製造機の製造にTMBAから人材と資源を提供したい旨を伝えた。「沈経済部長は多忙で、普段は連絡がつかないことが多い。でも、このときばかりはLINEをしてから数分で電話がかかってきた」と許理事長は笑う。

その後、許理事長は、厳名誉理事長が賴氏に連絡をしたと知り、ここに後に「マスク国家チーム」と呼ばれるチームの原型が誕生した。賴氏は、金のためではなく、使命感で集まった彼らの団結力に感動したという。

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