「感染爆発」止めた東京が全く称賛されない理由 称賛集めるニューヨークとの差は文化にある

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また、5月12日になってニューヨーク州は多くの郡における「緊急手術の再開」を許可しました。ということは、コロナ危機のピークに当たっては1カ月以上にわたって、事実上「コロナ以外の疾病」に対する手術は「延期」されていたのです。実際は、一部の病院を「非コロナ病院」として緊急の対応をする計画もありましたが、患者がコロナ感染を恐れて来なかったこともあり、機能していませんでした。

つまり、コロナの患者数が対応可能人数をオーバーして救命ができなかったケースに加えて、非コロナの患者が、コロナ感染拡大の影響のため、十分な治療が受けられずに亡くなったケースもあったということです。やがて事態の沈静化とともに、事実が明らかになると思われますが、こうした状況の全体はまさに医療崩壊と言われても仕方のないものでした。

まったく様相が違う東京の「医療崩壊」

一方で、ニューヨークと比較すると人口あたりの死亡者数はずっと少ない東京の場合でも医療崩壊という言葉が使われています。例えば、5月13日に亡くなった大相撲力士の勝武士(しょうぶし)さんの場合でも、入院先が見つからずに治療が遅れた可能性が指摘されています。その他にも、病床が満杯になったり、対応に時間がかかるなどの事例は東京で報告されており、一種の「医療崩壊」だという表現が多く見られました。

ですが、同じ医療崩壊という形容でも、ニューヨークと東京は全く違います。ニューヨークの場合は感染者34万人、死亡者2万7000人というまさに感染爆発のなかで、可能な例外措置をどんどん投入しつつ、救命できなかった例が多く出たわけです。

一方の東京都の場合は、感染が4997人、死亡が203人。死亡者数で言えばニューヨーク州のまさに100分の1、人口あたりでは67分の1ですから、感染爆発は阻止できたと言っていいでしょうし、指定医療機関の制度や指定された病床が一時的にあふれた中で、原則として柔軟な例外措置を控えたために起きた問題と言えます。

ですから、同じ医療崩壊といっても、ニューヨークと東京の場合は全く内容は異なります。そして、全体としては東京はなんとか持ちこたえ、ニューヨークは事態を後追いするだけで精一杯だったのは客観的事実だと思います。

それにもかかわらず、ニューヨークの場合は知事への信頼も高く、医療従事者への称賛の声にあふれているのは、あくまで文化的な問題だと思います。日本の場合は、全体的には成功しているのに反省的であったり、批判が絶えないわけですが、これもそういう文化だからだと思います。

こうした日本の厳密なカルチャーは、限度を超えた異常事態には弱いとも考えられ、今後へ向けての反省は必要ですが、同時にそのカルチャーが感染拡大を防いだとも言えると思います。

(感染者・死亡者数等は執筆時のものです)

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

世界のニュースを独自の切り口で伝える週刊誌『ニューズウィーク日本版』は毎週火曜日発売、そのオフィシャルサイトである「ニューズウィーク日本版サイト」は毎日、国際ニュースとビジネス・カルチャー情報を発信している。CCCメディアハウスが運営。

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