益川敏英・京都産業大学教授(ノーベル物理学賞受賞者)--成果ばかりを求めたら大きな仕事は出てこない
『荘子』に「無用の用」という言葉があります。役に立たないように見えて、実は真に有益な働きがある。僕は、この言葉が好きですね。
--大学生の学力低下が指摘されていますが、それ以前の教育に問題があるという声もあります。
小さい子ども時代に勉強しようというモチベーションが出てくるのは、親が「いい大学に入りなさい」と言うからではないでしょう。
教科書に書いてあったり、伝記で読んだり、あるいは学校の先生が脱線して話をしてくれた中に出てくる偉人や、偉大な業績。そうしたものに対する「あこがれ」こそが大切なのです。
たとえば、野球少年であればイチローがそうでしょう。彼にあこがれて、そのバッティングを自分なりに研究して、少しでもイチローに近づこうとする。子どもは本来、勉強が大好きですよ。自分が楽しいと思えば夢中になる。僕も小さい頃、親から早く寝なさいと言われるから、布団の中に入って懐中電灯で本を読んでいました。
「こんな成績ではこのくらいの大学しか行けないぞ」と、テストのたびに怒られてばかりいたら、子どもは傷ついてしまう。いかに自信を持たせるかが大切なんです。僕も「学校の成績は悪いけど数学や理科はやればできる。天才だ!」と勝手に錯覚していましたが、それがよかった(笑)。
あこがれとロマン それが子どもには大切
--もちろん、錯覚ではないでしょうが……。
あこがれを子どもたちに持たせるにはどうしたらよいか。
学校の先生は、指導要領に基づいて決められた時間内で授業をしなければならないから余裕もないでしょう。だから、退官した大学教授が学校のクラブ活動などに出掛けていって、自分の研究成果、学問の面白さを直接生徒に伝えてあげる。そうした仕組みが国家的なプロジェクトとしてできたら、非常に有意義だと思います。