人員削減によるV字回復はNO!豊田章男の「心」

コロナ後も感謝でサプライチェーンをつなぐ

「3・11」では、それを実践した。東北への高速道路が開通したのを受けて、まだ波打っていた道路を「アルファード」に乗って被災地に向かった。当時のことを思い出して、章男氏は、次のように回想している。

「高速道路を走っていくと、いずれも他府県ナンバーのクルマだった。クルマの中には、段ボールがいっぱい積み込まれていた。ああ、東北の人たちに“心”を運んでいるのだと実感しました。あのときほど、クルマが気持ちを運んでいる乗り物だと感じたことはありません。それを生涯忘れないようにしようと思いました」

日本自動車工業会の会長を務める章男氏は4月10日、記者会見を開いた。日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会のそれぞれの会長が同席した。

席上、彼は言った。

「自動車産業の技術を継承し、自動車産業を支え、日本の経済を復興していくには、サプライチェーンを維持する必要がある。そのために互助会のような仕組みをつくりたい」

コロナ収束後、トヨタ1社では日本経済の復興の牽引役にはなれない。サプライチェーンの1社でも欠ければ、日本経済の崩壊の歯止め役にはなれない。裾野の広い自動車産業で働く人たちの雇用を守り、日本の自動車産業の技術とそれを支える技能を持った人材を守り抜いてこそ、“アンカー”になれるというのが、彼の考えである。

簡単には人を切らない

章男氏の経営の軸は、“人”にある。コロナ禍でも、雇用を死守する。人は“コスト”ではない。知恵を生み出す“改善源”だとして、リーマン・ショックのときも、日本はもとよりアメリカでもいっさい従業員に手をつけなかった。

「先が見通せないというと、一律に何割カットとか、そういうことを言い出す。当面の需要がないんだから、ハイ、工場をクローズして、働いている人は辞めてください……。トヨタの場合は絶対、そういう会社にはなりたくない」

章男氏は、人員削減によるV字回復には異を唱える。

「いまの世の中、V字回復がもてはやされます。雇用を犠牲にして、国内のモノづくりを犠牲にして、業績を回復させる。それが評価されるが、違うのではないか。苦しいときこそ、歯を食いしばる。それを応援できる社会であることが求められると思う」

その本質は、“人間経営”だ。彼ほど、“人”を大事にする経営者はいない。

次ページ“人”中心の発想を貫く「ウーブン・シティ」
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