「健全財政の打破」で世界恐慌を克服した政治家 高橋是清ならば「100兆円規模の財政出動」も

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1931年、高橋は、5度目となる蔵相に就任し、金本位制からの離脱と金兌換の停止、金融緩和、日本銀行による国債の直接引き受け、そして財政赤字の拡大など、ケインズを先取りしたケインズ主義的政策を断行した。その結果はまことに劇的なもので、1936年までに国民所得は60%増加し、完全雇用も達成したのである。

「健全財政」という固定概念

当時、高橋が打ち破った「固定概念」の1つは、国家予算の収支均衡を原則とする健全財政論であった。だが、高橋が90年前に破壊したはずの健全財政論は、今日の日本においてもなお、強固な「固定概念」として政策当局や経済学者、そして世論を支配している。

例えば、昨年、MMT(現代貨幣理論)が我が国にも広く紹介されたが、MMTこそ、健全財政論を否定する理論であった。

しかし、我が国の政策当局や経済学者の大多数は、MMTを一蹴し、健全財政論に固執し続けた。それどころか、この世界恐慌以来のコロナ危機の渦中にあってもなお、「固定概念」を打ち破ることができずに財政支出を惜しみ、財政赤字の拡大を懸念している。

しかし、海外に目を転じれば、憲法で政府債務を制限しているドイツですら、制限を停止し(「財政目標『放棄しない』 麻生財務相」時事ドットコムニュース 2020年4月13日)、EU(欧州連合)も、加盟国に課していた財政健全化目標を一時停止して(「EU、財政ルール一時停止 経済縮小『09年に匹敵』」日本経済新聞社 2020年3月21日)、大規模な財政支出へと舵を切っているのである。

ところが、4月13日、麻生財務相は、財政健全化目標は放棄しないと述べている(「財政目標『放棄しない』 麻生財務相」時事ドットコムニュース 2020年4月13日)。

麻生財務相とは対照的に、高橋蔵相は、1934年、健全財政論はもはや時代遅れだと喝破し、均衡予算に固執していると、国家間競争の敗者となると警鐘を鳴らしていた。

(中略)今日の如く政府自ら事業をなし、あるいは民間の事業を助けていかねばならぬ―各国経済の競争場において負けてはならぬことになつて、歳出はただ一般の行政費だけで済ますことが出来なくなつた。ここにおいて事実上入るを計つて出づるを制するといふことが行はれない時代になつてきたのである。
(中略)もしそれがいかぬといつてただ納税のみによつて政府の仕事をすることになれば、国際間の経済競争に落伍者となるよりほか仕方がない。今日の時勢の変化からこれはよほど研究すべき価値がある。(経済論)

さらに高橋は、健全財政論を是とする主流派経済学を批判し、財政赤字の拡大は恐れる必要はないだけでなく、国富を増大させるためにはむしろ必要であると論じた。

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