【鎌田浩毅氏・講演】一生モノの勉強法(前編)
それなら科学の世界には何の蓄積があるのかというと、私はやはり一応蓄積していると思います。たとえば、100年前と何が変わったかというと、衛生状態が大きく変わりました。今インフルエンザが問題になっているけれども、1918年のスペイン風邪と言われた世界的流行の時は、ものすごく衛生状態が悪かったわけです。まずウイルスも知られていないし、衛生工学がなかった時代ですね。医学自体も遅れていたのです。それと比べると、今回はいくらパンデミックと言っても全然状況が違いますね。医学はちゃんと蓄積しているわけです。
それから土木もそうですね。ダムや台風の予測とか、いろいろなことが進んでいますよね。私の専門の火山学では、たとえば1902年に、カリブ海のマルチニーク島という島で大噴火が起きました。800度ぐらいのマグマが粉々になって、ダーッと一気に流れました。その流れはどれぐらい速いかというと、時速100km。だから高速道路を自動車で走っても、まず逃げられません。高温で高速のマグマが流れて2万9000人が死んだのです。その頃は、火山学が非常に遅れていました。しかし今や、そういった噴火は1カ月以上前にわかります。だから2000年に北海道の有珠山が噴火したときも、2万人ほど避難して1人の死者も出ませんでした。こうして火山学はきちんと蓄積しているのです。けれど、経済や政治、もっと言えば倫理など、アリストテレスの時代から同じことを言っていて、何も変わっていないと思うのですね。
ここで大事なのが、一つは科学的思考法。きちんとした予測と制御ができなくてはならないと思うのです。科学の定義は何かというと、私たちはいつも「予測と制御」と言います。たとえばボールを45度で投げると、あるところに落ちます。これは高校物理で教わった法則ですが、ボールは最初の速度と風速、質量などがわかると、投げた時に落ちる場所が予測できるのです。これが科学の姿ですね。そういう当たり前なことが、混乱している今の経済にはできていない。ということは、科学的でないということです。だから私は科学的な考え方を身に付け、それをちゃんと実行してもらう方法が、一生モノの勉強法だと思うのです。
(中編に続く、全3回)
[当講演は2009年9月7日に開催されました]
1955年東京都生まれ。
1979年東京大学理学部地質学科を卒業。通産省地質調査所主任研究官などを経て、1997年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授に就任。
「科学の伝道師」として、専門書のみならずビジネス分野においてもベストセラーを多数上梓。『週刊東洋経済』誌上で「一生モノの古典」を毎週連載中。
鎌田浩毅ホームページ http://www.gaia.h.kyoto-u.ac.jp/~kamata/
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