【鎌田浩毅氏・講演】一生モノの勉強法(前編)
●落ちこぼれの理系科学者が、急に火山に目覚め理学博士を取得
では、地球科学の研究者がなぜ、『一生モノの勉強法』などという本を書いたか。私は東大理学部で、地質学を勉強していました。しかし、その時は全然面白くなかったのです。そして1979年に大学を卒業し、科学から足を洗うつもりで公務員になろうと思ったのですが、入れてくれるところが見つからず、結局筑波の通産省地質調査所という研究所に入りました。そこで仕方なく始めたのが、地質学の研究者生活でした。非常にふまじめな研究員だったのですが、ある日火山に出合ったのです。九州の阿蘇山にたまたま出かけて行きました。そこにはカルデラといって直径20kmの巨大な陥没がありました。今でもモクモクと蒸気を上げていますが、それは9万年前という大昔に大噴火して地下にあった岩石が全部出てしまったためにできたものです。そのマグマが九州全土を覆いました。そして、ぽっかり穴が開いたのですね。そんな話を聞いて、火山が急に面白くなったのです。そこからまじめになって火山学者になりました。就職が先で、それから火山学者になって19年ほど研究所にいました。そして41歳のとき、京都大学から声がかかって教授に着任したというわけです。落ちこぼれ学生が何かとても面白いことに目覚めて勉強熱心になり、気がついたら世界でもトップレベルの研究者になっていました。
2500年前の『論語』という古典で、孔子先生は40歳ぐらいで何か世の中で認められる人、世の中から見える人にならないといけないと教えています。ちょうど私も40歳までに火山学者として身を立てて、それから大学に移ったわけです。専門で身を立てるノウハウは、これまで何冊かの新書にも書きました。大学の教授は、研究をした人が着任しますね。研究論文をたくさん書いて評価され、教授選考で何十人かの中から1人選ばれます。その教授になるために学問を積むノウハウは、いろいろな業種の方にも通用するものなのです。
落ちこぼれの理系の科学者が、急に火山に目覚めて勉強して理学博士を取りました。そして2年間アメリカに留学しました。論文を書いて一応世界的にも知られる研究者になるまでのノウハウは、ビジネスの世界でも通用します。それは理科系的な勉強法です。まず戦略の立て方。先ほどの孔子のように40代で何をするか、50代で何をするかという人生の戦略です。もう一つは戦術。30代でどんな本を読むか。どういう勉強をするか。そしてどうやって人に認めてもらうか。単に自分がいい仕事をしただけではダメで、認められて給料やポストに反映されなければいけません。そのためには、コミュニケーションのスキルがいるのです。
もちろん大学でも同じで、論文を書いていれば教授になれると思ったら間違いです。論文は最低限の必要条件で、それが認められるためには、人間関係も良くなければダメなのです。仕事ができて、かつ人柄が良くないと教授には選ばれません。それは会社でも同じでしょう。「あいつは仕事ができる」と言いながら、「けれど……」と続いて部長になれなかったりするわけでしょう。というわけで、私はコミュニケーションの技は、やはり自分が身を立てるうえで大事だと思ったわけです。そういうことを全部ひっくるめて、今年の4月に出したのが『一生モノの勉強法』です。
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