山間の建設会社が「キャビア」で世界を狙うワケ 三つ星シェフが高評価するチョウザメの卵

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出荷数も昨年は38匹、今年は60匹と年を追うごとに増えていった。すると、口コミで評判が広がって、東京の飲食店、それもミシュランで星付きレストランのオーナーがわざわざ訪ねてくるようになった。それだけチョウザメの、キャビアのレベルが高かったのだ。

旬のキャビアをそのまま瓶詰めに

一般的に輸入物のキャビアは、塩漬けにされ、低温殺菌されている。これは長期保存のためだが、どうしても塩味が強くなって、キャビア本来の風味からかけ離れてしまう。そこで大山さんは自社加工場を整備して、低塩分で低温殺菌しないフレッシュなキャビアをそのまま瓶詰めにできないかと考えたのだ。

「あまり知られていませんが、キャビアの旬は12月中旬~3月中旬なんです。旬を迎えたいちばんいい時季のキャビアを瓶詰めにしたら絶対においしいだろうと思い、キャビアの自社加工場を作ることにしました」

瓶詰めの作業を行うクリーンベンチ(写真:大山さん提供)

今年2月にオープンしたキャビアの加工場「S Caviar Labo」を見学させてもらったのだが、入り口のドアを開閉する際に虫などが侵入してこないように細心の注意を払いながら入らねばならない。しかも、立ち入ることができるのは、入り口から入ってすぐのスペースのみ。そこから先はクリーンルームになっていて厳重に管理されている。

これは今年6月から食品を扱う全事業者に対してHACCP(ハサップ)による衛生管理の義務化が行われることを見越してのこと。HACCPとは、「Hazard」(危害)と「Analysis」(分析)、「Critical」(重要)、「Control」(管理)、「Point」(点)の頭文字を組み合わせた言葉で、食品の製造、出荷をする際にどの段階で微生物や異物混入が起きやすいかという危害をあらかじめ予測や分析をして、被害を未然に防ぐ方法のことだ。

「S Caviar Labo」の作業スペース内は完全なクリーンルームだが、瓶詰めをする際には、さらにクリーンベンチを用いて無埃、無菌の状態に保っている。

「晋也CAVIA」。25グラム入りで価格は1万3000円(筆者撮影)

「今年3月、『S Caviar Labo』で初めてキャビアを瓶詰めしました。5キロ程度なので、まだまだ少量ですが、毎年5キロずつ増やしていけたらと思います。お客様の要望に合わせた塩や塩分濃度で加工できますから、これからOEM生産も請けていきます。目標はアメリカやヨーロッパへの輸出ですね。衛生管理を徹底したのも対米、対EU向けのHACCPの取得をめざしてのことなんです。“晋也 CAVIA”は海を越えますよ!」

岐阜県の山間にある建設会社が加工したキャビアが世界で評価される日はそんなに遠くないように思えた。 

永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー

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ながや まさき / Masaki Nagaya

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。

地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに記事と写真を提供。

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