山間の建設会社が「キャビア」で世界を狙うワケ 三つ星シェフが高評価するチョウザメの卵

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「業者として営業に行ってみたところで会ってもくれないんです。だから客として料理を食べたうえで料理長やオーナーに会いたいと伝えると必ず会ってくれます。それに、どこにも負けないホンモロコを養殖しているというプライドもありますから、おいしい料理を食べさせてくれる人に買っていただきたいと思っています」

地道な営業活動を続けながら、地元の商工会にも足を運んで販路の拡大を模索した。そんな中、2012年に岐阜県高山市のホテルで養殖しているチョウザメを見学する機会があった。ホンモロコよりはるかに大きな魚影を目の当たりにした大山さんはその場でチョウザメの養殖を決意し、すぐに500匹の稚魚を仕入れた。

メスのチョウザメには卵(キャビア)がぎっしり(写真:大山さん提供)

「半分くらいは残りましたね。急な環境の変化に対応できず、死ぬこともありますから。しかも、厄介なことにチョウザメはオスとメスの見分けがつかないんです。池に稚魚を入れて3年半経った頃にお腹を捌いて卵巣の有無を確認するしか方法がないんです。捌いた後は縫い合わせてオスの場合は肉として出荷します。メスはそこから3年以上育てて、ようやく卵、つまり、キャビアをとることができます」

チョウザメ養殖は自然に近い形で

2015(平成27)年には中津川市内やその周辺の和食店やフランス料理店のオーナーを招いてチョウザメ料理の試食会も開いた。チョウザメの肉は、クエやウナギと似ていて、香草焼きや唐揚げにするとおいしいそうで、試食会に参加した料理人からは、「和洋中のジャンルに関係なく使えそうだ」「生でも、煮ても、揚げてもおいしい」など評判も上々だった。

大山さんのチョウザメ養殖の特徴は、前に述べた専用池にある。1000平米の広大な池で育てているチョウザメは約300匹。養鶏で例えると、生産性を追求するブロイラーではなく、ストレスを与えない平飼いである。さらに、池には植物性プランクトンを生息させて、肴の排泄物を分解し、水が浄化される。

チョウザメから取り出したキャビア(写真:大山さん提供)

つまり、自然に近い形で育てているのだ。これも長年にわたる錦鯉の養殖の経験とノウハウがあったからこそできたのだろう。2018(平成30)年には、チョウザメの自家繁殖に成功した。その翌年にはメスのチョウザメ12匹を初出荷した。

「ホンモロコの営業で東京や大阪の飲食店を訪れた際に、チョウザメの養殖を始めたことも宣伝していました。そのおかげで取引先の開拓は、ホンモロコのときよりも苦労はしなかったですね。何よりも、チョウザメを買っていただいたお店からキャビアの品質を評価してもらえたのがうれしかったですね」

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