サムスンのトップ、「世襲決別宣言」の背景事情 実刑判決回避を狙ったパフォーマンスなのか

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国政不正介入事件とは、朴槿恵(パク・クネ)前大統領が知人を不当に政治に参加させ、便宜を図っていたのではないかとされる事件のことだ。これは、朴氏の長年の知人である崔順実(チェ・スンシル)氏が朴大統領の政治運営に不正・不当に介入したとの疑惑が2016年に発覚、国中を揺るがす一大スキャンダルとなった。このスキャンダルは、2017年の大統領弾劾と罷免につながった。

2014年に李健熙会長が倒れた当時のサムスンは、今後のグループ経営をどう受け継ぐかという大問題が浮上していた。後継者は李副会長と決まっていたが、李一族が経営権を保有し続けるためには、他の大株主との調整や保有株主にかかる相続税負担などを解決する必要があった。そのために政治の手を借りざるをえなくなり、李副会長が朴大統領にそれを求めたことで結局、贈収賄や横領などの罪で李副会長は逮捕、起訴されてしまった。

李副会長に実刑判決の可能性も

それまでのサムスンのグループ支配は、複雑な株式の持ち合いで成り立っていた。発行株式の半数以上を外国人株主が占めており、グループ会社の株式を李一族やグループ各社の間で持ち合うことで均衡を保っていた。

こうした複雑な仕組みのもとで経営権をスムーズに承継させる解決策の1つが、李副会長が大株主で、主要グループ会社の一つである第一毛織と、サムスン電子の株式を多く持つサムスン物産を合併させる案だった。グループの核心企業であるサムスン電子の経営を李副会長が引き継ぐには、この合併が必要とされた。

ところが、この合併案にサムスン物産の株主である海外ヘッジファンドなどが強く反対した。そこで、サムスン物産の大株主だった韓国・国民年金公団が合併に賛成するよう朴大統領に頼んだ。国民年金公団の賛成によって合併は成功したが、なぜ賛成したのか現在でもよくわかっていない。国政不正介入事件の過程でこのことが発覚し、李副会長は贈収賄などの容疑で逮捕された。

李副会長は2017年の一審で懲役5年の実刑判決、2018年の二審では懲役2年6カ月、執行猶予4年を受け、釈放されている。ところが最高裁判所となる大法院は2019年に二審を破棄、差し戻した。これにより、釈放された李副会長が再収監を受ける可能性が出ていた。

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