サムスンのトップ、「世襲決別宣言」の背景事情 実刑判決回避を狙ったパフォーマンスなのか

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今回の李副会長の謝罪は、自社内の遵法監視委員会の勧告があったとはいえ、裁判を意識したパフォーマンスにすぎないという意見が支配的だ。判決前の、世論向けのアピールという見方だ。実際、「経営権の問題と労組問題について具体的な取り組みについて説明がない以上、本当にサムスンは変わることができるのか疑わしい」という見方も広がっている。

李副会長個人は、巨額の税負担とそれを回避するために違法・不法行為にまで踏み込まざるをえない現実に嫌気がさしているのかもしれない。再収監の可能性も出ている今、ここまで踏み込んで謝罪したことには、相当な決意が必要だったに違いない。

集団経営体制にうまく移行できるか

とはいえ、「子どもには承継しない」という約束を本当に果たすことができるのか、疑問は残る。李副会長には2人の実子のほかに、2人の妹がいる。母親も健在だ。そして、父から子へ経営権を渡すことは、韓国人にとってあまりにも当然のことで、それ以外の方法はないと考えている人も少なくない。

サムスンは今後、プロ経営者による集団経営体制を目指すことになる。だが、創業以来、オーナー経営を続けてきた企業が突然、集団経営体制にうまく移行できるか大いに疑問だ。実際にサムスンをはじめ韓国の主要財閥は、オーナーの指示待ち経営者が少なくない。

さらに、もう1つの謝罪内容である「無労組経営」の本気度にも疑問符がつく。サムスンは創業以来、「管理のサムスン」と呼ばれ、それを誇ってきた。労働組合が結成されるような大きな労使問題はないほど、労使一体となってうまく経営しているという創業者の自負心からだった。労組が設立されるということは経営に過ちがあることを意味するため、労組の設立を容認できなかったとも言える。

韓国では1987年の民主化以降、労働者の権利も拡大し、主要財閥でも労組が相次いで設立された。この流れに反していたのがサムスンであり、これまで労組設立を執拗に妨害してきたことも事実だ。サムスンは労災などが絶えず、深刻な労使問題も発生させてきた。経営陣と激しくぶつかり、スト連発も辞さない労組は、今後のサムスンの経営にとって大きな不安材料となるだろう。

「サムスンの労使文化は時代の変化に合わせることができなかった。責任を痛感している。これまで労使問題で傷を負った方々に心から謝罪する」。李副会長の決意はこれまでのサムスンのあり方を根本から覆すことにもなりかねない難題だが、それは同時に韓国の財閥企業すべてに突きつけられた課題でもある。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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