この例に代表されるように、飲食業界の事業環境は悪化の一途をたどっている。4月21日には飲食業経営者らで結成された「外食産業の声」委員会が記者会見を開き、家賃の支払い猶予を求める「家賃支払いモラトリアム法案」の概要を発表した。
具体的には、テナント企業が求める家賃交渉に不動産オーナーが応じることを義務づけ、コロナ禍が収束するまでの間、政府系金融機関が家賃の支払いを立て替えるという内容だ。
200万円の給付金では「焼け石に水」
同委員会の発起人で、都心部を中心にレストラン30店を経営するEGGS‘N THING JAPAN代表の松田公太・前参院議員は東洋経済の取材に、「外食産業の多くは、国や自治体の要請に従って休業や時短営業をしているため、売上高が激減している。その間にも家賃と人件費の固定費だけは支払い続けなければならず、資金繰りが急速に悪化している。家賃について交渉をしたいと申し出ても『不動産オーナーと会うことすらできない』『仲介業者としか話をさせてもらえない』という声が多数寄せられている」と訴える。
政府は、補正予算に盛り込んだ最大200万円の持続化給付金を「家賃対策」と位置づけており、追加の支援策には及び腰だ。だが、東京や神奈川、大阪など、都市部の飲食店では1店舗あたりの家賃が100万~200万円にのぼるケースもあり、持続化給付金だけでは「焼け石に水」という声が圧倒的に多い。
一方、家賃を受け取る不動産オーナーの側も、家賃の減額や猶予を簡単に認められるほどの余裕はない。不動産オーナーらでつくる全国賃貸住宅経営者協会連合会には3月以降、テナント側から家賃の減額や猶予を求める相談が相次いでいる。
同会の稲本昭二事務局長は「テナントは家賃交渉に応じろと主張してくるが、乗れる相談ではない。不動産オーナーも金融機関への返済を迫られているため、テナントの要望には応じられない事情がある。ただ、テナントの苦境も理解はできるので、テナントと不動産オーナー、双方が生き延びるための策を国会で早く決めて欲しい」と語る。
国会では、家賃支援に向けて与野党の協議が始まっている。立憲民主、国民民主、共産、社民、日本維新の会の野党5党は4月28日、テナントの家賃負担を一定期間猶予する法案を衆議院に共同提出した。
野党案は、テナントが払うべき家賃を政府系金融機関である日本政策金融公庫が一時的に肩代わりし、テナントの経営体力が回復した段階で返済していくスキームだ。対象は資本金10億円以下の中小事業者や個人事業主などで、2月以降の売り上げが前年同月比20%以上減るかなどした場合が当てはまり、場合によっては公庫が債権放棄することも想定している。
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