ある先物取引会社のファンドマネージャーは「国内の底値買い勢力は主に工商銀行、建設銀行、中国銀行の“紙原油”に集中しており、これら3つの銀行のポジションの総額は30億ドルほどとみられており、これは14万枚(1枚=1000バレル)のポジションに相当する。このポジションはICE(ブレント原油先物)とWTIの期近物(訳注:先物取引で受渡期日が最も近いもの)の2大商品に集中している」と考えている。
この種の“紙原油”の投資家は現物を引き取る能力を持っておらず、WTI期近物が主な商品となると、期日を迎えれば決済または転売を行うほかない。例えばWTI5月限の場合、5月物を売って6月物を購入する。規模が最も大きい工商銀行は早くに転売を行い、建設銀行も前倒ししてポジションをクローズ(決済)している。中国銀行のみ、この清算日を4月21日(訳注:WTI先物5月限の取引最終日)に設定していた。
意外にも、“紙原油”が固定の転売期日を設定していること、そしてそれが清算日と同日であることは、早くから空売り筋に目をつけられた。「素人の買い勢力が、プロの空売り筋に狙い撃ちされた」と、前出のファンドマネージャーは語る。さらに中国銀行がWTI先物5月限の転売を行おうという際に、あまりにも極端な状況に直面することとなった。それが原油のマイナス価格だ。
中国銀行は取引に直接関与していなかった
歴史的な事件はわずか30分間の内に起こった。
北京時間4月21日午前2時、WTI先物5月限の価格は1バレル=0.01ドルにまで下落。2時8分、取引価格がマイナスに突入。2時22分には取引価格は引き続き1バレル=-10ドル、2時28分に1バレル=-30ドルに下落。そして2時29分に1バレル=-40ドルまで暴落し、2時30分の取引価格は1バレル=-37.63ドルとなった。
注意しなければならないのは、この価格が形成される過程に、中国銀行は関与していないということだ。「中国銀行が適時ポジションをクローズしなかったから価格が-37ドルまで暴落したというわけではない。中国銀行とJPモルガンはその日の清算値で清算したまでだ。中国銀行はセッション中の取引に参加していない」、あるベテランの市場関係者はこう語る。
“紙原油”の商品仕様に照らして考えると、全体的な運用プロセスは以下のとおりだ。まず銀行が顧客に対し相対取引のオファーを出し、顧客が銀行に保証金の100%を提供し売り気配と買い気配を相殺した後、銀行が先物取引業者と期先物の取引を行い、手元資金をヘッジする。
銀行が先物取引に直接参加することはできないため、銀行は直接的に先物取引所で取引を行うのではなく、先物取引業者を通じて場外で取引を行うのだ。そしてWTI先物5月限の決済期限前の最後の取引日は北京時間の4月21日。つまり、中国銀行の“原油宝”は、取引価格がマイナスとなる歴史的なブラックスワンに直面してしまったというわけだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら