在宅勤務を阻む「ハンコ問題」、激論の舞台裏

デジタル化を突き付けられた日本の課題

そもそも電子契約とは何なのか。ハンコを用いた契約では、締結する当事者同士が契約書に捺印していた。一方で電子契約は、改ざん不可能な「電子署名」と、誰がいつ契約に同意して署名したかを電子的に刻印する「タイムスタンプ」の2つからなる。それぞれに専門業者がおり、電子契約サービス各社はこうした業者からシステムを仕入れ、使いやすくなるよう設計・開発している。

国内で電子契約を導入しているのはまだ8万社程度にすぎない。このうち約8割となる6万5000社に導入し、シェアトップを走るのが、弁護士ドットコムの電子契約サービス「クラウドサイン」だ。コロナの影響で在宅勤務に移行する企業が増えた3月は、前年同月比で導入社数が1.7倍以上、契約送信件数は2倍以上に増えたという。先述のメルカリが全社導入を進めているのもクラウドサインだ。

野村HDやサントリーが相次いで導入

クラウドサインはその名の通り、クラウド型のサービスで、契約書をクラウドサイン上にアップロードすると、契約相手にメールが届く。相手方が承認すれば契約完了だ。他社サービスも同様だが、契約書を送信する側がサービスを利用していれば、受信する側が導入する必要はない。クラウドサインの場合、月額の固定料金と契約の送信1件当たりの従量課金がかかる。

クラウドサイン上の契約同意画面。フォームに社名などを入力し、押印ボタンを押すだけだ(写真:弁護士ドットコム)

弁護士ドットコムの橘大地・取締役クラウドサイン事業部長は、「以前は業務効率化やコスト削減のために導入したいという声が最も多かったが、足元は急な在宅勤務への移行で、明日から導入したいという問い合わせが急増している」と話す。また、導入企業の大半を占めるのは中小企業だったが、「最近は大企業での全社導入がトレンドだ」(橘氏)という。具体的には、野村ホールディングスやサントリーホールディングス、KDDIなどが名を連ねる。

電子契約を取り巻く法制度は、ハンコでの契約と異なる。契約当事者同士が裁判になった際の証拠の有効性を規定する電子署名法や、税務上必要な書類の電子管理を定めた電子帳簿保存法などがある。前者ではきちんと電子署名が記録されているか、後者では国内で認定されたタイムスタンプが正確に記録されているかが求められている。

「安心安全な電子署名を普及させたい」と話すのは、2019年末に電子契約サービス「Great Sign(グレート・サイン)」を開始したベンチャー企業「TREASURY(トレジャリー)」の山下誠路社長だ。グレート・サインでは、何らかの障害で電子署名がきちんと記録されなかった場合にアラートを出すなど、正確性にこだわる。

「他社のサービスでは電子署名がついていないのに課金されたり、その契約書が何カ月も放置されていたりする。タイムスタンプがつくまでに時間がかかる業者もある。署名の見方を知らない人も多い。いざ裁判になって電子署名の証明書が無効だったときのリスクは大きい」(山下氏)。

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