ダイバーシティ企業に学ぶ危機を乗り越える策

母が知的障害のある娘のために行った改革

そして2011年に事件が発生した。

ネット通販の会社向けに納入したドーナツにカビが生えていたのだ。短期間での開発、納期を余儀なくされ、無理をして材料に用いたコンニャクが原因だった。しかも先方が、急に気温が上がり始めた4月に、室温40度を超える倉庫で保存していたのだ。

しかし、売り上げの依存度が高い得意先で、無理な取引を強いられても、かつてのように「結構です」と言えなくなっていた。工場新設に充てた借入金を返したいがため、1社で数千万円となる大口顧客を失うのを恐れたのだった。

譲れないものは譲らない

商品は全品回収のうえ、廃棄。売り上げ補償、材料費なども含めると1000万円の自己負担となった。そのうえ、受注は激減。だが、中崎氏は諦めなかった。

「自分が食べたい、自分の子どもに食べさせたい商品だけを作る」

『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。 ソーシャルファームという希望 』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

原点に戻って、それだけを守った。小口でも自分たちの商品に共感してくれる販売先を増やし、大口数社だけだった取引先を120社までに拡大した。やがて少しずつ売り上げが戻り、1億3000万円台をキープできるまでに回復した。

小口向けの商品を増やせば、当然、その分手間と時間を要するから、経営面からすれば、一見ムダに見えるかもしれない。だが、企業経営の目先の利益を追いかけた結果、大きな危機を招いたことを自覚しているから、もうそれを「ムダ」と見誤ることはない。

根底には「売り手よし、買い手よし、世間よし」、近江商人の三方よしの教えがあるという。満足できるものをこしらえて、お客さんに喜んでもらう。それが、多少の回り道はしたが、中崎氏、そして「がんばカンパニー」がたどり着いた答えだった。

障害を抱える人と健常者がともに働く職場、そこにはさまざまな工夫がなされている。誰もが働きやすい職場を作ること、一見「ムダ」に見えることが本当に「ムダ」なのか、見極めること、それこそが1番の危機管理につながるのだろう。

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