ダイバーシティ企業に学ぶ危機を乗り越える策

母が知的障害のある娘のために行った改革

「ずっとお母さんと一緒というのも、本人にもよくないし。なんとか、彼女のための施設を作りたいと思ったんです」(中崎氏)

同時に「人に優しい、自然に優しい商品」というコンセプトを打ち出したのだが、「滋賀県はまだまだ田んぼがいっぱいあるし、バカにされましたね。自然いっぱいで、クッキーも自然派とか言われてもな~と」(同)。根底には、大企業やパティシエの作るお菓子とは違う、自分たちにしかできないものをという思いと、多くの障害者を生むことになった公害問題があったという。

当初、生産量は1日わずか3kg。1袋350円ほどで販売するはずが、原価1000円以上かかる始末。等間隔で切りやすいよう、ワイヤの切断機を作り、食器棚には調理道具の写真を貼ってわかりやすくするなど、作業しやすいように工夫を重ねた。ともに働く仲間である障害者の「できないこと」ではなく「できること」を日々発見しては、少しずつ工夫と経験を積み重ねていった。

売り上げ2億円突破の後に

製造の見込みがつき始めると、営業部を結成し、飛び込み電話をかけては、商品をケースに入れて売り歩いた。1日に10カ所以上回ることもあった。クッキーだけではなく、シフォンケーキ、ドーナツ、ビスコッティなども作るようになり、2004年、障害者の雇用数を30人に増やし、工場も整備。生産能力は1日300kgと100倍になった。

「事業規模が小さいときは、障害者だというだけでなめられました。物乞いに来たみたいに追い払われたり、障害者だから安く作れるんですよね? みたいな問い合わせもありました。なめてたら困ります! 賃金は払ってますから!と電話ガチャ切りしました」(同)

生産量が上がると、生協や自然食品店など、新規企業や団体からの受注が入り始めた。徹底して体に優しい素材を使うという姿勢が認められたからだった。売り上げも1億円を超えるようになっていった。やがて2010年には補助金や自己資金を含め、数億円を投資した現在のクッキー工場を建設した。1日100kgの生産量となり、売り上げも2億円を突破した。

だが、実は大幅に伸びた収入を支えたのは、コンセプトに反する、材料にこだわらないコスト主義で生産された一般商品の受注によるものだった。発注した企業は、仕入れ価格と、売るためのキャッチフレーズのみを提示した。もらい受けたレシピで製造した商品が、会ったこともないパティシエの名前で販売される。添加物を投入した商品が、原価の何倍もの価格でネット通販された。

ビジネスとしては順調だが、自分の子どもに食べさせたくない商品を作るようになったことに苦悩したと中崎氏は言う。「クッキーの端や余りが出たら、社内販売で安く売るんやけど、こればかりは誰も買わなかったですね」(同)。

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