科学が示す「コロナ長期化」という確実な将来 3つの変数でわかる私たちがとるべき対策

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まず、対策によって実効再生産数を低下させれば、集団免疫率も下げられることを忘れるべきではない。結果、死者数も抑制できるのは言うまでもない。加えて重要なのは、実効再生産数が低くなればなるほど、新規感染者数の山は低く、カーブも後ろずれして緩やかになることだ。その分、時間当たりに発生する重症患者数を抑制することができ、医療崩壊を防ぐために極めて重要な手立てになる。海外の一部であったように医療崩壊が起きれば、新型コロナの致死率は跳ね上がってしまう。

以上のことを踏まえて現在、先進諸国の多くが採る戦略は、接触削減などの対策で実効再生産数を抑制して医療崩壊を防ぎながら、最終的にはワクチンの実用化により人工的に集団免疫を達成しようというものだ。もともと集団免疫率という数字は、人口の何割の人がワクチン接種を受ければ、集団免疫が成立するかを計算するために使われることが多い。重症化を防げる治療薬の実用化も重要な分岐点となるのは言うまでもない。

国民生活、政策を科学的に見直すべき

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ただし、冒頭で述べたように、新型コロナに有効なワクチンがいつ実用化されるかははっきりしない。少し古いが、「ワクチンファクトブック2012」(米国研究製薬工業協会)では、ワクチン開発は通常、10~15年の歳月がかかり、10億ドル規模の資金が必要になるとしている。新型コロナでは、資金や制度面での政府支援拡大が期待できるが、WHOはそれでも実用化には早くて12~18カ月かかるとしている。

となれば、われわれはワクチンや治療薬の開発に注力して希望を維持しつつ、長期化した際のシナリオに基づいた戦略を着々と実行すべきだろう。それは、政府のコロナ感染対策や経済運営にとどまらない。われわれの働き方やライフスタイルまでにかかわる問題だ。

新型コロナの下での生活や政策のベースとなり、より正確なデータを計測しておくべきものは、実効再生産数と集団免疫状況(既感染者数)だ。例えば、感染症疫学の専門家が最新のデータを基に、毎日あるいは毎週といった頻度で最新の実効再生産数を公表する。その推計値を見ながら、政府は経済や国民生活とのバランスを考えて接触削減などの対策を強化すべきか緩和すべきかを検討する必要がある。

また、実際の集団免疫の状況がわかれば、正確な重症化率や致死率を把握できるうえ、政府が対策によりコントロールする実効再生産数の下でいつ頃、集団免疫率に達するかといった見通しを国民に示すこともできる。

そのためにもPCR検査をもっと拡大させてデータ量を増やし、推計値の精度を高めるのは当然だ。また国内外で抗体検査実施が検討されているが、これは国民1人ひとりが「自分が陽性か否か」を確認して安心を得るためではなく、社会全体で実際の免疫保有率がどれくらいになっているのかを推計するため、と理解すべきだろう。

新型コロナは無症状や軽症の陽性者が多いため、実際の集団免疫の状況を把握するにはPCR検査以外でもデータ収集する必要がある。一部の専門家は、医療機関などが保有する過去数カ月分の血清の抗体検査を行うだけでも、おおよその免疫保有率がわかると指摘している。

われわれの生活でも、どんな取り組みが実効再生産数をどれだけ下げるのかを計測しながら、いろいろと試す必要がある。生活や仕事のあらゆる面でオンライン化を行ってみたり、スマートフォンの位置データ活用によって人々の移動状況を計測したり、陽性者との濃厚接触者などを追跡するアプリを活用したりすることによって、過去にはできなかった実効再生産数の低下を実現することができるだろう。

新型コロナとの戦いでは、人類の知恵と科学、テクノロジーで対抗するしかない。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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