コロナ禍「パンを作る人」が激増している背景 世界中でストレス・ベイキングが流行に

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どうにもならない状況にイライラする人は、おそらく多い。しかし、パン作りには必ず作業の終わりがある。時間がかかるといっても、何日もかかるわけではなく、決着が早い。必ず完成するというものを作ることが、イライラしがちな心に落ち着きをもたらすのではないだろうか。

クックパッドの「たべみる」では、パンのほか、ギョウザのレシピも人気が上がっている。3月30日の週に急速に検索が増え、2019年同時期の1.6倍弱にまで伸びたのだ。

ギョウザも、手間がかかる料理である。しかし、一つひとつたねを包んでいく単純作業には、無心になれる魅力もある。検索してレシピを調べるということは、その人は普段ギョウザをあまり食べないか、外食や中食、冷凍食品で食べていると考えられる。

巣ごもりレシピに見る「希望」

普段作らないパンに挑戦する人、ギョウザに挑戦する人。巣ごもりレシピの人気は、もしかするとコロナウイルスの脅威が去ったのちに、新しい料理文化の局面をもたらすかもしれない。

それは、普段は時短料理で済ませている人、惣菜や加工食品、外食で済ませている人が、ヒマつぶしに挑戦した料理で、作る喜びに目覚める、あるいは思い出すことだ。パンを作ってみた人が、他のパンやお菓子を作るかもしれない。ギョウザを作った人が、次は他の料理を試すかもしれない。

今まで時間に追われ時短ばかりを求めていた人が、急に時間ができて料理の楽しさを知る、あるいは面倒だと思っていた作業が案外大変でないことに気がつく。作ってもらった家族が喜ぶ顔を見る、一緒に食べる楽しさを体験することで、絆を深める人もいるだろう。そうしてゆったりとした気分を思い出し、今までの生活を見直そうと考え始めるかもしれない。

中には、手作りの喜びから手ごたえを得て、新たな趣味やビジネスへと足を踏み出す人もいるのではないだろうか。

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コロナウイルスの脅威を体験したことは、これからの世界を変える。もちろん経済へのダメージは大きく、人間関係を引き裂いてしまうなどのマイナス面がたくさんある。生活が厳しくなり命の危険にさらされる人も多い。この感染症による被害は大きすぎる。

しかし、テレワークが珍しくない生活になり、プライベートな時間や空間を大切にできる人が増える可能性があるといったポジティブな面もある。そして、手作りパンなどの新しい料理を覚え、新たな強さを見つける人もいるだろう。料理は人が生きるベースである。それを自分の手に取り戻す人が増えていることは、ささやかだが1つの希望である。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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