「対岸の火事」ではないブロードリンク事件 企業が意識を改めなければ情報漏洩が起きる

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パシフィックネットでリユース・リサイクルの現場責任者である杉研也取締役は、「デポの管理を徹底してデータ消去を行えばコストはかさむ。しかし、排出元の(業況)も厳しい状況なので処理コストはかけたくない。必然的にデータ消去費用はダンピングになる。加えて、中古機器の再販価格がここ数年で2~3割低下している。セキュリティーがないがしろにされる可能性は高くなっている」と指摘する。

「情報漏洩事件の前、ブロードリンクと取引していた企業から取引の話があった。『データ消去はタダじゃないの?』と聞かれ、『タダではできません』とお答えすると『じゃあけっこうです』と断られた」と大江副社長は話す。

パシフィックネットでは引き取りなどを含めたデータ消去料金はパソコン50台で20万~30万円(条件などで異なる)に設定している。事件以降でさえも「データ消去の費用は払いたくないという排出元は少なくない。(今でも)無料や格安をうたって買い取りを増やそうとしているリユース業者もいる」(大江副社長)という。

コスト負担の覚悟はあるのか

東洋経済はブロードリンクに今回の情報流出事件が起きた背景について見解を聞こうと取材を申し込んだ。新型コロナウイルスの影響も理由に対面取材はかなわず、メールでの質問を行ったところ、具体的な回答は得られなかった。

パソコンを物理的に破壊してしまえばデータの復元は不可能だ。が、どの記憶媒体が破壊されたのかを担保することは難しい(記者撮影)

企業にしても自治体にしても官公庁にしても、「捨てる」ものにかかるコストは極力抑えたいのだろう。しかし、廃パソコンには重要な個人情報が残っている可能性がある。それを適切に消去する費用を惜しむのは、排出元にはむしろ経営のリスクではないだろうか。

安全の徹底には相応のコストがかかる。少し前までは中古機器の売却でそのコストを回収できたものの、そのサイクルが壊れかかっている。情報漏洩のリスクを減らすには排出元が一定のコスト負担を覚悟する必要がある。

ブロードリンク事件は日本社会に「データ消去・破棄のコストは誰が担うのか」という課題を突きつけた。それでも、多くの企業や官公庁がリスク管理の意識を高めることなく安価に廃棄を続けるのであれば、再び情報漏洩事件が起きることになるだろう。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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