「対岸の火事」ではないブロードリンク事件 企業が意識を改めなければ情報漏洩が起きる

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「情報漏洩事件は起こるべくして起こった」。パソコンのレンタルやリユースを手掛けるパシフィックネットの大江正巳副社長はそう語る。

パシフィックネットからすれば、引き取ったパソコンのデータ処理の作業は無料ではできない。それどころか、一定の信頼を担保して行うには手間もコストもかかる。「それを無料や格安で引き受ければ、データ消去はいい加減にならざるをえない」(大江副社長)からだ。

データ消去作業は機器の回収から始まる。排出元のオフィスに出向き、対象機器を回収する。その際、パソコン本体、ディスプレー、マウスやキーボード、HDDなどの周辺機器の型番を確認する必要がある。

排出元が最低限行う基本的なデータ消去がされておらず、回収依頼を受けた機器の型番や数量が異なっているといったことも少なくない。自前で回収するか、外部業者に委託するかにかかわらず、徹底した管理が必要だ。

データ消去にかかるこれだけの手間

パシフィックネットでデータ消去を行うデポ(作業エリア)は担当者以外立ち入り禁止、荷物検査もある。回収した廃パソコンはデポに到着後、再び型番をチェックする。機器がバラバラなので人海戦術とならざるをえない。一時保管を行ったうえで、順次データを消去していく。

パシフィックネットでもデータ消去のデポに防犯カメラやセキュリティゲートなどを設置。「情報漏洩を防ぐには物理的な設備に加え、労務管理まで含めた運営が大事」(担当者)という(記者撮影)

データ消去の方法には専用機器を使った物理的な破壊とソフトによる消去がある。素人目には破壊ならば安心に思えるが、実はそうではないのだ。専用シュレッダーにかける映像を残しても、当該機器が対象になっているか、データが完全に破壊されたか、証明するのは簡単ではない。

一方、ソフトを使用して消去する方法ならログが残るので比較的証明がしやすい。業界標準となっている『Blancco』は、フィンランドで開発され、世界各国の政府機関などで広く使われており復元される心配もまずない。しかし、こちらの方法も作業の手間はかかる。

具体的には、作業エリアに何十台ものパソコンを並べて、ソフトをセットして起動する作業を繰り返す。HDD容量によって異なるが、平均的に1台消去するのに1時間以上かかる。HDDの不具合から格納されたデータが消去されないケースも起こる。それらもチェックし、場合によっては物理的な破壊を選択するかを判断していく。

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