安倍政権の「一律10万円給付案」は遅すぎた なぜ市場の反応はかなり冷ややかなのか?

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日本の総人口1億2600万人全員に10万円を給付するには12.6兆円が必要になる。2020年度第1次補正予算の財政支出16.8兆円を組み換えたとしても、そう簡単に捻出はできない。

7日に閣議決定された第1次補正予算案では、減収世帯に30万円を給付する「生活支援臨時給付金」に4兆円が計上されていた。12.6兆円の支出をひねり出すには、残り8兆円強を他の歳出から切り崩すか、財政資金の増額が必要になる。

カレンダーベースの国債市中発行額が増発される可能性もあるが、幸いにも円債市場で警戒感は高まっていない。「前倒し債を活用すれば、市中発行額は抑えられる。さらに日銀が国債買入オペを増額させることもできる」(バンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ金利ストラテジスト、大崎秀一氏)という。

前倒し債は30兆円台半ば程度の余裕があると市場では試算されている。日銀も4月のペースでみると、今年度は72兆円の国債買い入れを行うことになるが、国債償還が59兆円あり、ネットでの増加額は13兆円程度。80兆円の「めど」にはまだ余裕がある。

スピード感が重要な理由

しかし、こうした財政拡張的な政策を、いつまでも続けるわけにはいかない。前倒し債を使いすぎれば2021年度の国債増発懸念が強まる。潜在的な国債増発懸念はじわりと金利上昇要因になる。

現金給付のスピード感が重要なのは、追加的な財政措置を防ぐためでもある。給付金が大部分、貯蓄に回ったとしても大きな問題ではない。一気に現金を給付し、休業要請や外出自粛を徹底させることで経済活動を最低限に止めて、ウイルス拡散を防ぐのが政策の目的だ。

売り上げの減少や給与の減少への不安が解消されなければ、細々ながらも営業を続け、出勤することを選択する人はなくならない。そしてそれは、新型コロナの拡散リスクを継続させ、追加的な経済政策が必要になる可能性を残してしまう。

「現金給付は、消費者の不安を解消させる救済策。景気刺激策ではない。そのタイミングがずれてしまっては十分な効果が発揮できない」と、シティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏は指摘する。

過去に例がないような拡張的で一体的な財政・金融政策も「国難」に立ち向かうためとして今は許容されそうだ。しかし、いずれ限界が来る。短期間で新型コロナを封じ込めるには、スピード感が大事であることが海外の例をみてもわかる。

緊急経済対策の決定からわずか1週間強での政策変更となった。しかし、市場では「一定の制限が付いた30万円給付策のウケが悪かった故の政策変更だろう。政治的な意味合いを感じざるをえない」(外資系証券)との声が多く、政治のスピード感を示すと好意的に捉えるマーケット関係者は少ない。

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