コロナで緊急搬送「祖母」が突如消えた壮絶事情 医療崩壊寸前のニューヨークでは今

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「もう亡くなってしまったのだと思う」とソリスは言った。コレアを探す家族たちの精神的余裕は日を追うごとに失われていった。そんな中、捜索の先頭に立っていたのがソリスだった。もっともソリス自身、新型コロナウイルスに感染したと思われる症状が出てブロンクス区にある自宅の寝室から出ることはできなかった。「でもいったいどこで?」

また、ソリスはこうも述べた。「もしジャマイカ医療センターに運ばれたのなら、人の出入りを示すカメラ(映像)はないのだろうか。到着したことを示す書類はないのだろうか」。

ソリスは捜索への協力を期待してニューヨーク・タイムズに連絡を取った。そこでニューヨーク・タイムズは、6日朝にソリスに代わってジャマイカ医療センターに問い合わせを行った。

ジャマイカ医療センターはその日のうちに、マリア・コレアという名前もしくは1946年5月12日生まれに該当する患者は見つけられなかったと文書で回答してきた。ただし、医療情報のプライバシー保護法規によりそれ以上のコメントは得られなかった。

一家の受難は3月下旬、コレアと同居していたエスコバルの妻ホルギンが胃腸の調子を崩したところから始まった。診察を受けた際の記録によると、心拍数も血圧も体温も高かったものの、医師の診断は単なる胃腸炎で、抗生物質が処方された。コロナウイルスに関する記載はなかった。

息子の妻を襲った「突然死」

だが翌24日の午後、コレアと同様に糖尿病の持病があったホルギンは家族のことを認識できなくなった。「神様のことやよくわからないうわごと」を口にしていたとソリスは言う。苦しい呼吸が少しでも楽になればと家族は部屋を加湿した。だが血糖値が急上昇してホルギンはリビングルームで昏倒した。

救急車を待つ間、ソリスは911番の通信司令員からの指示に従って心肺蘇生術を行った。だが蘇生はかなわなかった。遺体はそのままリビングルームに寝かされていたが、幸いにも葬儀社が見つかり、その日の夜11時に運ばれていった。

2日後、寒気を覚えたソリスは、自分が新型コロナウイルスに感染したことを確信した。それでも一家は28日にホルギンの葬儀をささやかながら執り行うことにした。葬儀場では参列者たちは10人未満のグループに分かれ、社会的距離を保ってマスクをしていた。大変な状況下にもかかわらず、1時間にわたって葬儀社が部屋を使わせてくれたことを家族はありがたく思った。

だがその頃には、コレアの体調は悪化しかけていた。30日の午前に咳が出たので、処方された薬をソリスのおばが薬局に受け取りに行った。午後になっておばが寝室のドアを開けたところ、コレアは反応しなくなっていた。

救急車はすぐに到着した。ソリスによれば隊員の1人は「回復を期待しましょう」と家族に声をかけ、ジャマイカ医療センターに向かうと告げたという。

翌日、ジャマイカ医療センターからマリア・コレアという名前の患者はいないと言われたとき、家族は仰天した。救急隊にも問い合わせたが、救急車はジャマイカ医療センターに到着しており、行き先変更はしていないと言われたという。

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