コロナで緊急搬送「祖母」が突如消えた壮絶事情 医療崩壊寸前のニューヨークでは今

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数日にわたって電話をかけ続けたソリスに対し、ジャマイカ医療センターの管理部門の男性は、コレアの特徴に合致する身元不明患者はいないと告げた。そしてクイーンズ区内の他の病院を当たってみるようアドバイスした。

ソリスは友人の手も借りてひたすら電話をかけた。市議会議員の事務所にも連絡を取った。コレアの写真付きのチラシも作成し、ソーシャルメディアに流した。それは同時多発テロの後、ニューヨークの各所に貼り出された尋ね人のチラシを思わせた。

「もし病院にお勤めでマリアを見たことがあったら、電話もしくはメッセージを早急にお願いします」とチラシには書かれていた。「家族の心は千々に乱れています」

コレアは20年前にコロンビアからアメリカに移住、4人の子どもと10人の孫がいる。家族はコレアが死んだものと考えたが、遺体がないことには何もできない。

「きちんと葬ってあげて、その死を悼みたい。それだけだ」とソリスは言った。

6日、ニューヨーク・タイムズが捜索に参加した直後に事態は大きく動いた。30日に亡くなった身元不明の女性の遺体が霊安室に安置されていると、ジャマイカ医療センターの関係者からエスコバルに電話があったのだ。

搬送記録について知るある人物によれば、次から次への救急要請に追われていた救急隊員が搬送時に重大なミスを犯したのだという。患者の受け入れ書類に、救急隊員はコレアの名前ではなく息子のジュリアン・エスコバルの名前を書き込んでしまったのだ。

「すべての関係者が全力を尽くした」

エスコバルは自身も体調が優れずマスクをしていたが、7日の午前10時、母の遺体を確認するため病院に車で向かった。

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エスコバルが病院側から見せられた写真に映っていたのは間違いなくコレアだったとソリスは言う。コレアは病院に運ばれたその日のうちに亡くなっていた。「母がようやく安らかに眠ることができてよかった」と、エスコバルはソリスを通じてコメントを発表した。

ソリスはマンハッタンにあるニューヨーク・プレスビテリアン病院の管理部門で働いており、怒りよりもほっとした気持ちのほうが強いと語った。自分が母の死を悲しんだのと同じようにエスコバルもようやくコレアの死を悲しむことができるようになったからだ。過重な負担でボロボロになった救急・医療システムの中で、すべての関係者が全力を尽くそうとしたことに疑いはないと彼女は言う。

ちなみにあるニューヨークの救急本部によれば、通常であれば1日あたりの911番通報の数は4000件ほどなのが、30日には7000件を超えたという。

名前を取り違えた関係者についてソリスは「単に慌てていただけだと思う」と言う。コレアの遺体は荼毘(だび)に付され、遺灰はコロンビアにいるきょうだいの元に送られる予定だという。

「この世界はコロナウイルスのせいでおかしくなっている」とソリスは言った。「まあ問題はコロナに限ったものではないけれど」。


(執筆:Sharon Otterman記者、Ali Watkins記者、翻訳:村井裕美)
(c) 2020 New York Times News Service

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