車内も同様だ。阪急が創業した明治時代から大正時代、鉄道の車体は木で作られており、内装はニス塗りが主流。“木目調”ではなく、正真正銘の木目である。やがて金属製となり、車内に化粧板が張られるようになっても、阪急は木目をデザインとして残した。
座席のモケット(表地)も化繊ではなく、アンゴラヤギの毛にこだわり続けている。独特の手触りと、光の加減によって色合いが変わるゴールデンオリーブ色の座席は、阪急ブランドを語るうえで欠かせない。
そしてなによりも、阪急が守り続けているもの。それは、車体の色だ。マルーン色と呼ばれる独特の赤茶色は、創業以来続く伝統であり、阪急ブランドを象徴していると言える。
「阪急と言えばマルーン色」
実は、阪急はこれまで何度か塗色の変更を検討したことがある。車体構造や走行機器に新技術を導入し、1954年に誕生した初代1000系は、最新車両であることをアピールするために窓部分を白くすることを検討。だが、経営トップから「阪急と言えばマルーン色ではないか」との意見が出たころから見送られた。
1990年代には嵐山線を走っていた2800系をはじめ、各路線の計3編成で雲母を混ぜた塗料が試用され、わずかに赤みを帯びた塗色となったが、こちらも普及することはなかった。
一方で、1975年に登場した京都線の6300系は車体上部に白色(厳密には淡いクリーム色)の帯を巻き、特急用車両であることをアピール。この白帯は8000系・8300系以降の新型車両にも採用されるとともに、1990年代後半からは在来車の大半にも巻かれるようになった。
このときも、一部の利用者や鉄道ファンから「阪急電車でなくなってしまう」との反対意見が出たほどで、いかに「阪急=マルーン色」というイメージが定着していたかがわかる。
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