ECBの怒濤の資産購入は半年で限界にぶつかる 手札を使い切らないよう慎重さが求められる

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また、足元の落ち着いた状況を見る限り、3月のような実績を4月や5月も積み上げなければならないような展開にはならないだろう(と願う)。このまま市況が落ち着けば、ラガルド総裁にとってのPEPPはドラギ前総裁が「なんでもやる」と言って打ち出したOMT(加盟国の国債を無制限に買うという仕組み)のような存在になるのではないか。

ここから先は政治的にハードルが高くなる

しかし、この先、イタリアにおいて感染拡大ペースが再加速したり、今は落ち着ているドイツなどで死者数が増えたりするなど、想定外の事態に至れば、また同じような対応が必要になってしまう。もともと存在した月間200億ユーロも合わせれば約1兆ユーロも存在する枠を使い切ってしまった後に、これを再設定するのはそうとう難しいと想像する。

上述したように、現時点でも購入が一部の加盟国に偏りすぎているきらいがある。単一通貨をつかさどる中央銀行として特定国へのリスクテイクに重心が置かれた政策は続けるべきではないし、今回の決定を甘受したドイツやオランダも、今後は簡単に首を縦に振らないだろう。

仮に、現状の政策が尽きた時にこれを強化する判断を行うには、多分に政治的な判断を要するはずだ。ここで初めて、現在のユーロ圏財務相会合などで検討されている臨時のコロナ債発行や欧州安定メカニズム(ESM)で用意された5000億ユーロの救済基金の稼働、その結果としてのOMT発動などへの道筋が見えてくる。すでに4月9日のユーロ圏財務省会合でESM稼働の方針が決まってしまったようだが、これをもってOMTまで踏み込むのは避けたほうがよい。

今は既存の政策が奏功して域内国債市場が非常に落ち着いているのだから、ESMやOMTといった手段を示してやる必要はない。ユーロ圏に限らず、各国政策当局は手札を少しずつ慎重に使うべきである。新型ウィルスがどの段階でどの程度、終息ないし殲滅(せんめつ)できるのかは、わからないのだから。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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